word55 「この服 変じゃない」②
「持ってるギターは部活でも使ってるやつだけだったっけ?」
いつでも来いという覚悟を決めていた僕は、答えやすい質問だったのですぐにメッセージを返した。
すると、そこからは良いリズムで会話が続いた――。
「そうだね、俺の相棒はこいつ1人だけ」
「あれ本当良いよね」
「Jacksonのギターって弾きやすいって聞くしこの前触らせてもらった時もめっちゃ手に馴染んだ!」
「折原さんは何個かギター持ってるの?」
「てか、このプロフィール写真って折原さんの私物?」
「そうだよ」
「それとなく自慢してるw」
「いいでしょ?」
「え!こんなに持ってんの?」
「すごいね」
「うんうん」
「もっと言って」
「マジでかっこいい」
「赤いやつとかいいね」
「ほとんど中古の安物なんだけどね…」
「今日は何してた?」
「俺はさっき怖い映画見ちゃって暗い気持ちになってた笑」
折原から送られてくるメッセージを見ていると、音楽室で初めて2人きりになったあの日のことを思い出して、頬が熱くなった。
あの黒い髪をした天使から送られてくる眩しいくらいの言葉。それを受信できるこの普通のスマホは、今現在において黒いパソコン以上のチートアイテムだ。
夕飯時だからか、今日の過ごし方を聞いたところで折原からの返信は途切れた。僕も同じタイミングでご飯を食べて、少し頭を休ませるために目を閉じたりした。
当然その間も僕は、上がる口角を抑えるのが大変だった。
「怖い映画?幽霊が出てくるホラー映画とか?」
「いや、ホラー映画ではないけど……昔の宇宙人の映画」
「ふーん」
「地球侵略みたいな?」
「あ、ちなみに私は今日寝てた」
「折原さんは宇宙人って信じる?」
「信じるよ」
「私小さいころ宇宙人みたことあるしw」
メッセージの間の時間が長いことが続いた後、会話と呼べるくらいのやり取りが再開されたのはすっかり夜といった時間になってからだった。僕はお風呂も済ませて、いつでも寝れる状態でスマホを操作した。
先ほどと同じように別のことはせずに折原からのメッセージを待った。時折別のアプリを起動したりしてみるけれど、常にいつでも通知画面を開く準備をしていた。
「折原さんは好きな食べ物とかある?」
「うーん……ピーマンかな」
「ピーマン?笑」
「何の料理で食べるの?」
「そのまま焼いたのが一番好き」
メッセージを受け取る度に新たな発見、それと共により惹かれる気持ちがあった。ルックスは年相応だけど、ちょっと子供っぽいとこがあってかわいいだとか、こういうとこは男っぽいだとか、絵文字の使い方1つを見てもなんかかわいい。ぶっちゃけ折原からならどんなメッセージが来てもかわいいと解釈してしまうのだけど。
しかし、また時間を追うごとに折原からの返信のペースが遅くなってきた。
初めはこんなにたくさん話すつもりは無かったのに、意外と付き合ってくれるものだから調子に乗ってしまっていた。少々がっつきすぎたかもしれない。僕はそのことに気づくのが遅くなってしまった。
もう気づけば23時を過ぎているというのに……。
「もう寝る?」
だから、僕は適当なタイミングでこう送信した。
そうすればたぶん、向こうからもやめる流れのメッセージが来るはず。長くやりすぎたけど、付き合ってくれたし嫌われては無いよね。今日のやり取りを見返しながら、未だ衰えない幸せと一緒に返信を待つ。
先ほどは15分返信が来なかったのに、今回はすぐに返ってきた。そしてそれは全然予想外のものだった。
「めっちゃお腹空いた!今すぐラーメンが食べたい!」




