word54 「もしも 宇宙戦争起こっていたら」⑤
「約20億発の人工寄生虫が地球に暮らす人類の脳へ放たれた――。各国の都市部を中心に1人1発ずつ放たれたそれの命中率は約99.9%――。狙われた大半の人間は、人の形を残したまま人形になった――。」
どうやら周りの者とは違う様子の男を中心に捉えながら、テロップが流れる。
「けれどごくわずかに、都市部にいながら運良く支配を免れた者もいた――。弾道計算後、上空から落下してきた人や物が射線上に入る、下等ゆえ計算外となっている動物達の干渉、そういった要因で発生する弾道のズレ――。元より、全人類を支配下に置くことが目的ではないので宇宙人にとって問題にはならないが――。ただ確かに、自らの意思で動く者もいた――。」
テロップと映像の構成からして、この男こそが幸運にも助かった者ということだろう。変わり始めた映像の展開、僕はそれと共に体の姿勢を変えた。あと、怖くなってきたのでクッションを抱く。
画面の中央に映る男は見たところ30代前半くらい、黒いジャンパーを着ていて、頭にはニット帽を深く被っている。
ニット帽の男はしばらく上空を見つめた後は、しきりに周りの様子を確認した。あまり頭を動かさずに目だけを右に左に走らせ、ただ真っ直ぐ前を見ているだけの人形たちを見ていた。
宇宙船が開いて、そこから巨大な坂道が出現する。搭乗用の通路か、下りてくるとスタジアムの群衆が前へ向かって動き出した。ニット帽の男も周りに合わせるように流れに乗る。
「お先にどうぞ……」
「すみません……」
人形となった者達も普通に言葉を発することがあった。密集しすぎて事故が起こらないように社会性を持って行動する。我先に急ぐ者は1人もいなくて、スムーズに宇宙船への坂道を上っていった。
それが逆に気持ちが悪くって、悪夢でも見ているようである。
ニット帽の男も坂道の下まで辿り着く。見上げても大量の人の背中しか見えない、先ほどまでニット帽の男まで届いていた夕日も宇宙船の影に隠れた。
おそらく地球上には無いほど真っ直ぐで長い長い坂道、上っていくほどニット帽の男の表情は険しくなっていった。ここへ来たことを後悔しているのか、たまに目を強く閉じて大きく息を吐く。
「やっぱり死ぬのかな……まだ生きていたかったな……逃げたほうが良かったかな……今更戻ったら……でも、たとえ死ぬとしても1人じゃないから……」
映像と共に心の声としてニット帽の男の考えが聞こえる。泣き出しそうな声色だった。
「せめて最後に家族に会いたい……この群衆のどこかにはいるのか……もし、もう少し生きれたらチャンスは………………あるだろうか……」
坂を上り切ると見えた宇宙船の内部、入ってすぐの場所には見るからに個体を識別している機械があった。
空港で見かける金属探知機を大きくしたようなゲート、その奥に先ほど人を襲っていたような触手、そしてさらに隣には床に倒れる死体の山があった。
今も誰かが触手に掴まれて山の高さが上がっている。
下唇を噛んでしまう緊張感、僕はそれと共に違和感を覚えた。




