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word53 「告白したら付き合ってくれる人 人数」②

 次の日の放課後は軽音部での活動があった。


 座る場所や荷物の置き場所に困らなくなった音楽室で、僕は親友の隣に座っていた。その隣には同学年の友達がいて、そのまた隣には後輩の男子が2人いる。


「ラーメン屋なのにオススメのラーメンがまずいってマジですか。今度友達だまして食べさせてみます」


「うん。あそこの店、逆にチャーハンとかギョーザもめっちゃうまいのにメニューに1番大きく載ってるラーメンだけ変な味するから」


「ええ。どういう味すか」


 他愛のない会話がそこにあった。ギターやベースを抱えている者もいれば、何もせずに話しているだけの者もいる。


 軽音部の活動は基本的に、男女に分かれて行われた。教室は同じだけど、同じテーブルを囲むことは無く、少し離れた場所にそれぞれ固まっている。


 つまり、折原と話す機会はあまりない。


「――なあ、お前も食べたことあるよな?」


 折原のことを見ていた僕の肩を親友が軽く叩く。


「え、うん。あそこの電気屋の隣にあるラーメン屋だろ。あそこ安いし早いし基本うまいけど、店の名前が付いたメニューに1番大きく載ってるラーメンだけまずいよなほんと」


「そうそう」


「で、前に何も言わずに友達連れてって、めっちゃ旨いから食べて見ろつってラーメン食わせたりしたっけな」


 言いながら思い出して笑った。評判のラーメンを嬉々として1口頬張った友達の顔が複雑な表情になっていくのを今でもはっきり覚えている。


 折原と話す機会が少ないからと言って、軽音部の活動が楽しくない訳ではなかった。むしろ、最近の生活の中で1番楽しい時間だ。絡みが無かった同級生も後輩も皆いい奴らで、急に入ってきた僕を快く受け入れてくれた。


 話のノリも合うし、ここでこうして雑談しているのは楽しい。それに帰宅部だった僕は後輩ができたことも嬉しく思っていた。先輩と呼ばれるのも悪くない。


 ただ、だからこそ僕の恋がまた難しい。なまじ今この場所が心地いいがゆえに、そこから先へ踏み込まなくてもいいんじゃないかという気になってしまう。


「そういや先輩新しいガチャ引きました?」


「え、なんか良いのきたの?」


「何言ってんすか。昨日急にめっちゃ熱い発表あったじゃないですか。知らないんですか」


「知らん。ここ数日起動してないし」


「これっすよ、これ」


 後輩の1人が共にプレイしているソシャゲのゲーム画面を見せてくる。


「へー、ついに来たんだ……」


「え、リアクションうっす。先輩この女の子のキャラ好きって言ってませんでしたっけ?」


「まあ言ってたけど、その子にはもうあんまり興味ないかな――」



 ――結局今日も、折原に連絡先を聞けないまま家に帰ってきた。もっと言うと、今日は挨拶を交わすことすらも無かった。


 けれど、帰ってきてからすぐのこの時間はあまり胸が苦しくならない。まだ男友達と笑い合った楽しい気分が抜けきっていないし、僕には黒いパソコンがあるからだ。


 その先に賢者タイムが待っている可能性があるとはいえ、黒いパソコンで何を検索しようかと考える時間は恋の悩みも一時忘れられるほどの力がある。


 さて、今日はどうしようか……。やっぱり、ソシャゲのガチャを引くタイミングがいいだろうか……。

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