word52 「髪の毛 誰の」①
僕はある日の夜、黒いパソコンと1本の髪の毛を前に座っていた。髪の毛は黒いパソコンと同じく黒色で、真っ直ぐに伸ばすとパソコンの横幅よりも少し長い。
自分のものではないことは長さを見ればすぐに分かる。けれど、誰のものなのかはそれだけでは判断できない。
だから、僕はこれからこの髪の毛が誰の髪の毛なのかを調べようと思う――。
今日の午後こんな出来事があった。僕の学校の数学の授業は、志望する大学のレベルに合わせて2つのクラスに分かれて行われているんだけど、その授業が終わって教室に帰って来た時のことだ。
僕の席の周りで複数の女子が会話していた。しかも、スクールカースト上位のかわいいメンバー達。
数学のもう1つのクラスの授業が僕の教室で行われていることは知っていて、その時に僕以外の誰かが僕の席に座っていることは知っていた。
けれど、今日見るまではその人物が隣のクラスのマドンナとは知らなかった。
いつもは授業終わりに教室へ帰ってきても僕の席には誰も座っていなかったのに、今日は何故かいた。彼女たちを見つけると、僕は友達の所へ向かった。
話したことが無い女子達の間に入っていって「ごめん」なんて言う勇気無かったし、別に座ることを急いでも無かったし。
全く何て日だ。こんなハッピーを手にしていたなんて知らなかったぜ。あのイスになれるなら死んだっていい。おっと、そいつは言い過ぎか、ははっ――なんて思いながら、休み時間が半分終わるころまで友達と談笑して待つことにしたのだ。
そして数分後、空いた席に戻ると、教科書とノートを机の上に置いた。僕は温もりが冷めないうちにさっさと席に座りたかったから、軽く投げるような置き方だった。だから、その時机で動いたんだ。ある1本の髪の毛が。
僕はすぐに気づいた――。何しろ1本でも長くて綺麗だったものだから――。さらにその髪の毛が持つある可能性についてもだ。
彼女たちが立ち去った後に落ちていたものだから、まず間違いなく彼女たちの誰かが落としていったもの。つまり、スクールカースト上位の女子の頭の上で共に生活し、育てられ、毎晩風呂もベッドも共にしていたものだ。
それって絶妙に興奮しないか、っていう可能性のことだ。
僕は教科書とノートと共にその髪の毛をカバンに入れてしまった。すぐに気持ち悪いかと後悔したけど、咄嗟の判断では欲が勝ってしまった――。
――そして、その髪の毛が今、机の上で黒いパソコンと並べられているこの1本という訳だ。
ああ、そうさ。自分でも気持ち悪いと思う。今あの時に戻れるなら男のプライドが髪の毛を払って床に落とすだろう。
ただジーザス、クライスト。僕は検索をやめない。もう持って帰ってきてしまったのだ。だったらこれが誰のものなのかを調べるのが筋ってもんじゃないか。
決して欲に負けた訳ではない。だってこんな髪の毛1本が誰のだったとして、何に使うつもりでもないのだ。
聡明な僕の、純粋な探求心である。
「髪の毛 誰の」
僕は入力すると、まずは一呼吸置いた。




