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word51 「白いパソコン 何」①

 朝食は、昨日の夕食の残り物だった。母が作りすぎた天ぷらをご飯とインスタントみそ汁と共に頬張る。海老にちくわに、かぼちゃだとかナスだとかの野菜、どれもまあ……2日目でもおいしい。


 特にさつまいもがおいしかった。塩を付けたさつまいもの天ぷらが、それとは思えないほど甘味と旨味があっておいしい。素材が違っていたのだ。今回の天ぷらに使われたさつまいもは高級な貰い物である。


 母が誰かから頂いた小奇麗な段ボールには、他のさつまいもとの違いなんかを説明した仰々しい小冊子が付いていたほどだ。雄渾な筆致で書かれた品種名と、二つ折りで実を露わにしている芋の写真で構成された表紙。見るだけで他との違いは分かる。


 僕は机のに置いてあったその小冊子を手に取ると、裏返してみた。そこには生産者の写真が載っていて、それが意外にも若くて綺麗な女の人だったものだから、顔を近づけてしまった。


 そして、美人農家の詳細を黒いパソコンで検索してみたくなった――。


 登校の支度が済むと、玄関の扉を開けた。すると、数分前に家を出たはずの姉が、何をてこずったのか今頃自転車を押し出す姿が見えた。あまり姉に近づきたくない僕は少し歩幅を狭めて速度を落とす。


 なんとなくスマホを取り出して1歩2歩……。姉が道路に出て行ったのを見送ってから、僕も門を通った。そうすれば、姉を追うように別の自転車が僕の前を横切っていく。


 知った顔だった。近所に住んでいる青年、確か歳は姉と同じ。僕も子供の頃にいくらか話したことがある。最近は全く顔を合わすことも無くなったけれど、見ればすぐに分かるものだ。


 そういえば子供の頃、彼が姉のことを好きだとか言う話を聞いたことがあったが、あの恋はどうなったのだろう。そもそも本当に好きだったのか……。


 姉や近所の人あたりの恋愛履歴書を黒いパソコンで検索してみるのも面白いかもしれない――。


 冬の朝、かじかんできた手を温めながら歩いていると、見知らぬ女の子とすれ違った。毎朝何人も知らない人となんかすれ違うが、僕はなんだかその時だけ振り返ってもう1度その姿を見てしまった。


 まだ僕の家がある住宅街から出ていなかったのにもかかわらず、何百回と登校してきて1回も見かけたことがなかったからか。その女の子が景色や年齢に似合わぬ派手なコートを着ていたからか。とにかく自分でも分からない何か感じるものがあった。


 たぶん僕と年齢は変わらないはずだけど、あの子はあんな格好で朝からどこへ行くんだろう。空気に残った香水の香りが消えるまで、そんなことを考えた。


 そこでまた、黒いパソコンの影がちらつく。検索回数に余裕があれば検索してみたい――。


 家からちょっとそこまで歩くだけ……たったそれだけで、市販のパソコンやスマホでは検索できないけれど、知ることができるなら知ってみたいことがいくつも見つかる。


 あっちにもこっちにも、それはどこでもどこからでも見つかる。


 普通に生きていたら絶対に知ることができないこと、見ることができない物、聞くことができなかった声。僕は今まで色んなそれらを見つけては……選んで、黒いパソコンに教えてもらってきた。


 じゃあもし、何でも検索できるパソコンが手に入ったら、皆は一体どんなことを検索するんだろう。


 改めて黒いパソコンについて考えさせられる出来事が終わった次の日の朝、僕は癖になった検索したいことを探す中で、そんなことも考えた。


 もし、黒いパソコンが僕以外の誰かの手に渡っていたらどうなっていたんだろう。黒いパソコンが届けられる場所が少しずれていたらどうなってたんだろうって。


 僕とは違う風に使うはず。各々興味のある分野は違うはずだし、欲しいものも違うから。


 1番人気になる用途は……お金儲けなのかな……。その次はなんだろう……。やっぱり、お隣さんのことを検索して宇宙戦争を止めたりはしないんだろうか。黒いパソコンを手に入れても宇宙人や宇宙戦争を知ることが無い人もいると思う。


 だから、僕が選ばれたんだろうか――。


 そういうことでいいんだろうか……。その辺のこと、今日からの検索で分かると良いんだけど……。

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