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word49 「宇宙戦争 止め方」③

「まずはご飯を食べて寝てください。――」


 勝負の時だと思っていた僕にとって予想外の始まりだった。


「事を起こすのは本日の午後からなので頭と体を休めてください。――」


 いつでも走り出せるように軽くストレッチをした後、立ったまま検索をしていた僕は力が抜けてしまって、その場で膝をつく。


「宇宙戦争を止めるには今日の午後1時25分以降に、あなたのお隣さんの家に行ってある作業を行う必要があります。午後8時35分までに作業を終えれば得られる結果は変わらないため、放課後の時間でも問題ありません。細かい操作も必要になりますがそんなに難しいことはないですし、間違えても修正は利くので落ち着いて作業してください。最初に、お隣さんの家への侵入方法ですが――――」


 椅子に抱き着いて体を支えてもらいながら読んだ文は、想像の何倍も簡単なもので、本当にこんなことでと言いたくなるようなものだった。


 黒いパソコンからのありがたいお言葉を僕は何度か反芻した。自分の心の書き留めるように。まず自分の頭へ保存すると立ち上がって、スマホで画面の写真を撮る。間違いがないように2枚、そして3枚と。


 終われば部屋を出て、階段を下りて、電気が消えてしまっているリビングへ。冷蔵庫を開けるとラップがかけられた皿を取り出す。


 電子レンジに入れて温める。適当に決めた1分10秒という加熱時間、待つ間僕は無表情のまま暗闇で立ち尽くした。


 帰りの階段は寝ている家族を起こさないようにそっと上った。食器が震える音をなるべく抑えながら、猫のように柔らかく。


 夕飯を机の上に置いて、席に着く。


 箸を握って、とんかつを一口、ご飯も掻き込んだ。


 それが喉を通ると……僕はようやく……喜んだ。


「っっっっっしゃ」


 箸を折れてしまいそうなほど強く握り、コップを振り上げてお茶を飲む。その喉越しは全身に響くほどの快感、これが……噂に聞く勝利の美酒。いや、勝利の美茶と言うべきか。


 宇宙人をどうやれば撃退できるのか、少しでも多くの人間を救うにはどうすればいいか。きっと難しいだろう、結局お隣さんに黒いパソコンを渡すことになるだろう。そう思っていたのに、あんな簡単なことで良いのか。


 緊張感もさることながら、乗り越えた時の感動は高校入試の合格発表を凌駕するほどだった……。


 僕だけで戦争を止める方法があったこと、簡単だったこと、黒いパソコンを手放さなくても良いこと、それらが分かった喜びはすぐには飲み込めなくて、息を整えて準備してからでないと体がパンクしていまいそうだった。


 さらに口いっぱいに頬張る。衣がしなしなで、肉も硬くなっていたけれど、その時食べたとんかつは今までの中で最もおいしく感じた――。


 ――しかし……喜び切るのはまだ早い。また日が昇ってしばらく、僕は再びお隣さんの家の前に立った。

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