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word48 「隣の家 パソコン」①

 ここからも問題が見つからなければ今日1番の目的を達成できる。そんなワードだった。


 思ったより冷静で、いろいろ考えられているようだが……全然考えはまとまっていない。ただ、ひたすらに最も欲する答えを求めていたら、気づけば入力していた。


 キーボードの上、ほんの短い距離で指を動かしていく度に鼓動を早めて、やっとそこに辿り着けば、黒いパソコンとは少し違った形をしているEnterキーを、息を吹きかけるようにそっと……押す。


「右隣、左隣、どちらでしょうか?」


 白いパソコンはまず、そんな文を表示した。


 僕は頭の中で自宅とお隣さんの家が並ぶ姿を思い浮かべると、すぐに右隣という文字をクリックする。


「この家の右隣に位置する住宅には1つのパソコンがあります。」

 

 すると続いて画面上にそんな文が表示される――。


 そして、同時に目まぐるしいほどの情報を白いパソコンは見せた。


 最初に、僕の家に置かれている赤いパソコンの画像。次にパソコンの販売元のメーカーと型番、購入日時と使用期間、インストールされているソフト一覧に操作履歴。そういった情報がパソコンの画像を取り囲むように、それぞれ小さなウインドウに入った形で出てきた。


 やはり――黒いパソコンとは違っている。僕が検索したかったのは僕の家に黒いパソコンというとんでもない物質があることが分かるかどうかだったのに――。


 少なくともパソコン側が僕の意思を読むなんて芸当はできていない。


 僕は小さなウインドウの1つをクリックした。すると、それが拡大されて、父が閲覧したであろう競馬サイトや誰が使ったのか分からない通販サイトの情報がよく見えるようになった。


 そのままいくらか続けて操作してみる。感覚で分かるくらい親切に作られている白いパソコンに頼って、クリックしたりホイールしたり。結果、僕の部屋の情報や、僕のスマホの情報なども数珠繋ぎで閲覧することができた。


 しかし、黒いパソコンの情報はどうも得ることができそうになかった。


 良い方の答えが出てくれたことで、ほとんど吸い込めていなかった空気がようやく体に入ってくる。これでやっと確信を持つことができた。黒いパソコンとお隣さんは関係が無いのだと。


 散らかったウインドウを消しながら、頭の中で再確認する。お隣さんは何でも検索できるパソコンがあれば知りたいことがあるのに、知れていなかった――。この白いパソコンは性能が低いし、いや高いけど使用者の意思を汲んでくれたりはしない。


 つまり黒いパソコンとは違う――。そして、このパソコンではなぜだか黒いパソコンについて調べられない――。


 この辺りの要素をまとめれば、安心していいはず。


 けれど、だとしたらなぜ……黒いパソコンは検索結果にお隣さんを映したのだろうか……本当にただの偶然なのか……。


「それは何を検索してるんだい?」


「え」


 横からお隣さんがパソコンの画面を覗き込んでくる。


「これは、その……ちょっと試しにって感じで……」


「いやいやごめんね。言いたくなかったら言わなくていいんだよ。人が検索してるのを見るなんて失礼だったね。人間にとってパソコンの使い方なんてのはプライバシーの塊みたいなものだから」


「あっはは。そうですね……」


 お隣さんは僕の近くから離れて、猿のオティフが入った檻の近くまで行くと指を入れて遊び始めた。きっとそうして悩みを検索しやすいようにしてくれているのだった。


 僕は怪しまれないように思い付きで高校生の悩みっぽいことをいくつか検索した。折原さんのSNSの個人メッセージだとか、定期テストの答案だとか……。


「――もう大丈夫です」


 一通りアリバイ作りが終わると僕は言った。


「はいはーい。ちょっと待っててね」


 お隣さんは軽いノリで返事をした。ちょっとおネエっぽさを感じる口調だった。


 オティフを優しく檻の中に入れて近づいてくるお隣さんにもう恐怖は無かった。ちょっと抜けたところがあるお茶目な宇宙人ともっと触れ合ってみたいほどである。


 だからその顔を見て、これからお隣さんが聞いてほしいという悩みもきっと大したことが無くて、またちょっと笑ってしまいそうなものだろう。勝手にそう思った。


「終わった?」


「はい。ありがとうございました」


「じゃあ、私が君に聞いてほしい話なんだけどね…………実は私はもうすぐ死んでしまうんだよ」


 けれどここでもまた、お隣さんは状況を変えてきそうな言葉を発する。

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