word47 「黒いパソコン お隣さんから」⑦
「この魚、知ってる?知らないでしょ。地球の図鑑には載っていない、それどころか私たち以外誰も見たことがない魚だからね」
「へー……」
知ってる――。
「そして……これが私の本当の姿なんだ。どうか驚かないでほしい。君にとってはショッキングな姿かもしれないけど……どうか落ち着いて……。さあ、変化が終わったよ。どうかな?」
「おお……」
知ってる――。
お隣さんは続けて宇宙人であることの証明をした。思わず声を上げてしまいそうなほど気持ち悪い宇宙人しか知らない魚の紹介……そして、地球人の姿から宇宙人の姿への変化。
一言で言えば、圧縮された布団を戻した時のような感じだった。圧縮袋の役割をしていたであろうお隣さんの借りの姿が膨らんでいって、十分に大きくなればするりと本当のお隣さんがそこから抜け出てきた。
正直かなり気持ち悪くて、本当のお隣さんの肌の質感とかにも珍しさはあったが……驚きはない。
なぜなら、知っていたからである。
「あんまり……驚かないんだね。これ、作り物じゃないし、ドッキリとかじゃないんだよ」
「い、いや……あの、なんというか……驚きすぎて言葉が出ないんです」
言われて初めて自分の反応が不自然なことに気が付いて、思いつきの言い訳をする。
「ここには他にも君が驚くだろう物がたくさんある。これなんてどうだ。これが何の機械か分かるかな?」
「……いいえ、全然分かりません」
「これはね……なんと、人や動物の記憶を消してしまえる代物なんだ」
「ええーそんなー」
そうやって見せられたものも、僕の部屋にあるものとほぼ同じようなもので、お宅の星の製品だったんですねくらいの感想だった。けれど、今度はちゃんと驚いた。
「ほら、見てて。そこにいる猿の記憶をほんのちょっとだけ消して見せるよ。ごめんね……オティフ」
「すごいですね……」
お隣さんがスプレーのような機械のスイッチを短く押すと、リスザルみたいな猿がぼんやりして、次の瞬間驚いたように飛び跳ねる。着地に失敗して、ひっくり返ってしまった。
それを見ると、本来僕がこんな風に驚くんだとお隣さんは予想していたのだろうと思った。
「いやあ、ごめんごめんオティフ。お詫びに君が好きなアメちゃんをあげるよ」
お隣さんがまたどこかから取り出したアメを受け取った猿のオティフは勢いよくアメを食らった。アメは僕に渡したものと多分同じだった。
「それで……もう、宇宙人であることは信じてくれたよね?」
「はい、もちろん」
「じゃあ、どうしよっか。僕の話を聞くのが先がいいか。何でも検索できるパソコンを使わせてあげるのが先がいいか」
「そうですね……じゃあ、パソコンを使わせてもらってもいいですか」
僕は迷わず、1番知りたいことを先に知ることを選んだ。
すると、お隣さんは何も言わずに部屋の奥に進んで、1つのパソコンを持ってくる。
白い色をしたパソコンだった。白いマウスもセットで、一見したところ何の変哲もない。
「これって……」
「これが、何でも検索できるパソコンだよ。君がさっき話してくれた妄想のパソコンよりは性能が劣るけど、普通のパソコンじゃまず無理な検索機能が備わっている」
「へー……」
「人々が鍵をかけて守っている個人情報みたいなデータや、ネットに繋がっていないUSBメモリみらいな保存機器にあるデータも検索できるし、地球全体を詳細にスキャンして今現在どこに誰がいて何があるかも完璧に把握できる――」
お隣さんの話を聞きながら僕は、やっぱり違ったかと思った。色を見た時もだが、その前からずっと僕の持ってる黒いパソコンとは違うと思っていた。もし、同じだったら先ほどの公園での会話に違和感があるからだ。
「過去は無理だけど、少し未来のことも知ることができるんだ。例えばある人間の明日の行動を検索すれば、時間はかかるけどその人や周りの人間の性格や行動パターンを分析したり、明日の気候条件を調べたりして、何時にどこにいてどういう気分だとかをほぼ100%当てられる。地球や地球人のことをとことん調べ上げて作られた驚くべき機能さ」
「本当に使っていいんですか」
「ああ、約束だからね。けどちょっとだけだからね」
「はい」
確認を取ると、僕は画面の中にあるワードボックスに「隣の家 パソコン」と入力する。




