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番外編4 「王子 結婚方法」②

 そのポスターは、ある男性アイドルグループの、あるメンバーの顔が、アップで写ったポスターだった。


 王子様という言葉がよく似合う整えられたセンター分けの髪型に、誰が見てもイケメンだと答える中性的な顔立ち。


 所属するグループではセンターポジションを務めている。そんな彼が私の王子様だった。


 もう何年応援し続けているか分からない。デビューしたばかりの人気の無いころに、たまたま付けたローカル番組に出演しているところを一目見たときからファンだった。


 慣れないテレビ出演であどけなく笑う彼。何だか見た瞬間にピンと来たのだ。この人は私の好きなタイプの人だと。


 そして、その時既に「この人と結婚したい……」とも思った……。


 正に運命的な出会いである。一目見た瞬間にここまで私の心を奪えるなんて運命の相手以外あり得ない。


 生まれる前から神様に結ばれると決められていたので、あんなときめきが発生したのである。


 あの日から私は彼の虜だ。特に趣味の無かった私は、使うところの無い金でグッズやCDを全て買ったし、彼以外の男には見向きもしなかった。


 この田舎にある一部屋からずっと一途に彼を愛している。


 握手会で会ったこともある。目一杯おめかしして彼の前に立った私を、彼は目を輝かせて見てくれた。


 名前を覚えてと言ったら「約束する」とも言ってくれた。


 その日の夜にSNSでメッセージを送ったら返信もしてくれた。そして、ちゃんと私の名前を覚えていてくれた。


 まだそこまで人気の無いときだったからのことで、今ではメッセージを送ることもできないけれど、きっと今でも彼にとって私は特別なファンだと思う。確信している。


 だって、こんなに愛しているのだもの。絶対に私が彼のことを1番愛している。だから彼に1番相応しいのも私なんだ――。


 いつもの儀式が終わった私は、疲れた体をベッドに寝転ばせた。そして、子供の時から一緒に寝ているぬいぐるみを抱いて、スマホの電源を付ける。


 私は今日も彼の動画や、彼が所属するグループの動画を見ていった。画面に顔を近づけて、何度も視聴した曲のPVや録画したバラエティ番組を気分で選んだ。


 動画を見ている最中は頭の中で彼との甘い生活を妄想する。もし今も私と彼が付き合っていたらどんな生活をしているのか考えるのだ。毎日何度やっても飽きない。


 もう色んなシチュエーションで幾度となくデートしているし、いくらか喧嘩して仲直りしたこともある。1度行ったデートを思い返すこともあった。


 それなのに飽きずに、どんどん新たなエピソードが私の胸に刻まれていく。私の中にある彼との大切な思い出の日記。そのページを増やしていくのが私の日課だ。


 そのまま数時間ほど過ごせば、スマホの電源を切った。気付けば日付を跨いでいて、夜はすっかり静かになっていた。父も母もとっくに寝ているし、ここら辺で夜中に走る車は無い。


 虫の声は微かに聞こえるけれど、夏のカエルの声に比べたらよっぽど静かである。


 私は眠るために電気を落とす。すると、先ほど動画を見ていた時とは打って変わって、私の心も暗くなった。


 私の中にいるもう1人の私が、現実を見ろというのだ。これも最近のことである。両親や近所の人から結婚しろと遠回しに言われるからだ。


 ずっと疑っていなかった。今でも疑いようの無いことだけど、時折不安になってしまう。私は本当に王子様と結婚できるのかと。


 できるはずだ――。不安になる度に言い聞かせた。けれど、徐々にそうやっても打ち消せないほど不安が大きくなっているのを感じてしまっている……。


 一晩明けて翌日の朝も、農作業の為に畑に行く前に両親からお見合いの話をされた。私のいないところで色々と話を進めているのだ。


「そういうの私嫌だから」


 お見合いの話をされる度に私は言った。絶対に試しに会うなんてこともしたくない。


 彼への裏切りだし、少なくとも両親に用意された恋愛なんて死んでもごめんである。ロマンチックとは正反対だ。


 そんな悩ましい生活がまた数日続いた――。妄想しては、また不安になって、また妄想する――。芋を触っている時も、お風呂に入っている時も――。


 そして、ある休日の朝のことである。私が黒いパソコンと出会ったのは――。

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