第241話 おっさん、尋問する
ドガーはどうしようもない男で仕事もせずに遊び歩いていた。
遊び場があるところは治安が悪い所だから、捕まえる所を人に見られても住人は気にしてないようだった。
猿ぐつわをして手足を縛り上げて、路地の行き止まりに運んだ。
猿ぐつわを外す。
「お前達は何だ。どこの手の物だ。俺のバックには国がついている。暗黒街のボスとも顔なじみだ」
俺達は覆面をしているのでドガーには誰なのか分からないはずだ。
カイルには黙っているように言ってある。
「ジーナをどこに連れて行った」
「知らん、知らんよ。俺は知らん」
「そう言うと思ったよ」
俺は自白ポーションをドガーの口に突っ込んだ。
ドガーは毒だと思ったのか暴れたが、ヴァンパイヤの怪力に敵う者ではない。
もがもがごっくんとドガーが薬を飲んだ。
「名前は」
「ドガー」
「ジーナをどこに連れて行った」
「ミスランターの製造工場」
「何故だ」
カイルが沈黙を破って声を上げた。
「ジーナが俺を袖にしたからだ」
「そんな理由で」
「ミスランターの製造方法を言え」
「知らない。知らされてない」
こいつ、製造に関しては、何も知らないのか。
下っ端という事だな。
「製造工場までの地図を書け」
地図を書かせて、ドガーをどうするか考えた。
「こいつ、殺すか」
「殺さなくても良いんじゃない」
「こいつ許せない。でも片手の一本ぐらいで許してやるべき」
「僕も殺しまでは」
俺は心臓を手刀で一突きにした。
「何も殺さなくても」
カイルがそう言った。
俺も殺すつもりは無かった。
ただ、本能的に手が出てしまった。
「まあ、情報を漏らしたと分かれば、粛清されるだろう。遅いか早いかだな。俺なりの温情だ。よし、ずらかるぞ」
皆は納得したようで、俺達は路地を後にした。
「ジーナは元気だろうか」
カイルがうつむきながらそう言った。
「ジーナさんは元気で製造工場の工員をやっているわよ」
「そうですね。迎えに行ってやらないと」
カイルを連れて行くつもりは無かったが、ジーナの顔も分からない事だし、しょうがないかな。
俺はイリスの花屋に行った。
「聖杭ミスランターの製造工場の場所が分かった」
「何だそんな事。もうそれは判明しているわ」
俺が地図を見せると少し笑いイリスはそう言った。
まあ、何人もの人間が関わっていれば、情報は洩れるよな。
「どんな所なんだ」
「中の情報は何もないわ。警備も厳重なので分からないのよ。侵入に成功したレジスタンスのメンバーはいないわ」
砦も一人で壊滅出来たんだから、製造工場も容易いだろう。
問題は聖杭ミスランターを俺に使われたら防ぎようが無いって事だ。
スピードで圧倒して隙を見せなけりゃ楽勝だと思いたいがな。
「聖杭ミスランターに関する情報をくれ」
「魔力の塊っていうのがもっぱらの噂よ。込められた魔力は十万人分だとか。製造過程は判明していない。推測では魔石の役割を何かに持たせたという所ね」
「魔石からでは作れないのか」
「魔力を込めすぎると魔石は熱を放って粉々になるわ」
なるほどね。
確かに魔力発電では魔石を集めて熱を利用していたな。
あれが進むと爆発するのか。
「非常に高価なものらしいな」
「それほどでもないわね。モンスター退治に頻繁に使っているみたい」
「そうなのか」
「スピードの速いモンスターは駄目だけど、遅いのには絶大な効果があるわ」
「そうだろうな」
「軍の訓練で使っているという噂もあるわ」
「年間に何本ぐらい生産されていると思う?」
「そうね。30本ぐらいかしら」
貴重なのか違うのか微妙な線だな。
だが生贄で作っているのだとしたら、物凄い人数が必要になるはずだ。
計算が合わない。
どうやって作っているのだろう。
「製造工場は潰そうと思う」
「出来るなら、お願いしたいところだわ」
「たぶんできる」
「無理しないでね。あなたは切り札だから、こんな場面で失われてほしくないわ」
「ああ、目的を果たすまでは死なないさ」
「人間性を保つための努力はしている?」
「食事は毎日とってるし、風呂にも入るし、遊びもしているし、睡眠もとっている。大丈夫さ」
「今度、演劇に連れて行くわ。皇都の劇団は凄いわよ」
「期待している。ジャスミンとアニータも連れて行こう」
「そうね。約束よ」
イリスの心配そうな目が印象に残った。
皇帝を倒すまでは、まだまだ死ねない。
だが、最近はそれも薄れてきているような気もする。
急がないと。




