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第237話 おっさん、やりたい事を教える

「何だ」

「ご命令をどうぞ」


「そうだ、腹減ったろ。今、カップラーメンを作ってやる」


 ムハナは人前には出せない。

 ご命令をどうぞなんて人前で言われた日には、元奴隷なのがまる分かりだ。


「どうした。三分経ったぞ」

「ご命令をどうぞ」

「命令だ、食え」

「はい」


 心なしかムハナが嬉しそうだ。

 匂いを嗅いで食いたくって仕方なかったのだろう。

 カップラーメンの匂いは暴力的だからな。

 いかにも美味そうな匂いだ。


 食べ終わって、ムハナがまたこちらを見つめる。

 なんとなく居心地悪い。


「ご命令をどうぞ」

「今のところ命令はない」

「ご、ご命令をどうぞ」


 ムハナの顔が真っ赤で必死な感じだ。

 何だ。

 何が起こった。

 このもじもじ具合は、まるで幼稚園児が漏らしそう。

 不味い。


「命令だ、トイレで用を足して来い」

「はい」


 ムハナは物凄い勢いで部屋を出て行った。

 うはぁ、こんなに手間のかかる奴隷のどこが良いのやら。

 俺なら何も言わなくてもやってくれる万能AIみたいな奴隷が良い。


 ムハナが戻ってきた。


「命令だ、トイレに行きたくなったら教えろ」

「はい」


 一日、俺の忍耐が持つかな。

 そうだ。


「命令だ、やりたい事ができたら言え」

「やりたい事はありません。ご命令をどうぞ」


 手ごわいな。

 どうやったら、このロボットみたいな少女に、自我を持たせられるんだ。

 俺は心理学者じゃないぞ。


 助けてよ、ジャスミン、アニータ。

 二人とも任務は当分しないと言って休暇中だ。


 イリスにムハナを返したい。

 仕方ないショック療法するか。


 俺はフード付きの衣類を着せてムハナを市場に連れて行った。

 串焼きに目が行くムハナ。

 食いたいんだな。


「これはお金だ。物と交換できる」

「覚えました」

「買いたい物があったら、買って良いぞ」


 そう言って俺は銀貨を握らせた。


「買いたい物はありません。ご命令をどうぞ」

「ちょっとちょっと、ご命令をどうぞは禁止な。いかがしましょうかにしろ」

「はい、いかがしましょうか」

「串肉を買って食え」


「串肉3本」

「あいよ。お釣りだ」

「いががしましょうか」

「お釣りは取っておけ」

「はい」


 串肉をぱくつきながら、俺の後を歩くムハナ。

 3本買えとは言わなかったが、3本を選択したという事は、自我がない訳ではない。

 選択する事に慣れてないのだな。


「ここで行動できる事を言ってみろ」

「歩く、話をする、歌う、買い物をする」

「その中の何が一番やりたいか考えろ」


「いかがしましょうか」

「じゃ、好きな行動から優先順位をつけろ」

「歌う、買い物する、話をする、歩く」

「じゃ歌え」


「♪~♪~」

「それがやりたい事をするという事だ。出来る事に優先順位をつけてやりたい事をやる」

「はい」

「やりたい事をしろ」


 ムハナは喉が渇いたのかジュースを買って飲んだ。

 少しは行動できるようになったな。

 そしてまた歌いだした。


「うるさいぞ。商売の邪魔だ」

「すいません。ムハナ、歌を止めろ」

「はい」


「レッスン2だ。好きな事をやると迷惑になる事がある。迷惑になったら謝るんだ。そして、何が悪かったか考えろ」

「すいません」


 ムハナは店主に向かって綺麗なお辞儀をした。


「良いって事よ。次から気を付けてくれりゃあよ」


 ムハナを連れて俺の露店に行った。


「この子には好きなだけクッキーを食べさせてやってくれ」

「店長いいんですか」

「顔パスだ。身内だからな」


「はい、クッキー」


 ムハナは何も言わずにクッキーを受け取ると口に入れた。

 目が丸くなり。

 そして、おねだりする表情になった。


「御替わりをどうぞ」

「レッスン3。物を貰った時はありがとうだ」

「ありがとう」


 そう言ってムハナは微笑んだ。

 少し人間らしくなったかな。

 また、ムハナがおねだりする顔をする。


「レッスン4。欲しい時は下さいと言うんだ」

「下さい」

「どうぞ」


 頭は悪くなさそうだから、教えがいはあるが。

 これは先が長いぞ。

 一日で矯正するなんて無理だ。

 だが、出来る限りはしてやりたい。


「いかがしましょうか」


 首筋を見せるムハナ。

 俺は血の渇きを覚えた。

 ブラッドソーセージを食って渇きを抑えた。


「なんでそう思った」

「欲しそうだったから、違いましたか」


「いや良いんだ。今度そう思ったら、俺は腹が減ってるんだと思ってくれ」

「はい」


 ヴァンパイヤである事がムハナにばれそうだ。

 主人の顔色を窺って生きてきたから、察知したのだな。

 危ない危ない。


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