第211話 おっさん、野良と間違えられる
俺はいま乗り合い馬車を追いかけて爆走中だ。
別にダイエットする為に走っている訳では無い。
なんでかというと屋根に乗ってたんだが、俺の重さで馬車の屋根がきしんだ。
その音を聞いて乗客が不安になったらしい。
金属の骨は重いからな。
スクーターを買って追いかけても良いんだが、走りたい気分だったので走っている。
疲れをしらない体だしな。
「馬車がアイアンスケルトン2体に追いかけられているぞ!」
巡回の兵士達が馬車を見て叫んだ。
「早く逃げるんだ!」
「そうだこっちへ来い! スケルトンは任せてくれ!」
不味い。
このまま行くと討伐対象になってしまう。
馬車に飛び乗ると、襲っているように見えるかも。
ここで俺の最善の行動は。
追いかけるのを辞めると、馬車の行方が分からなくなってしまうし、兵士も諦めないだろう。
誤解を解くのが一番なので、ジェマが叫ぶのに必要な物。
拡声器を魔力通販で買って馬車に投げ入れた。
「このスケルトンは私が従えてます!!」
ジェマの一言に兵士が安心したような表情を浮かべる。
アイアンスケルトンは強敵だからな。
一介の兵士には、討伐は出来ない。
普通なら兵士に死人が出る案件だ。
俺はこれからも誤解はあるんだろうなと思いながら、兵士の脇を通り過ぎだ。
魔導士が出てくると話はもっと厄介かも知れない。
プライドが高い奴だと間違いを認めたくないから、問答無用になる可能性もある。
仕方ない。
魔力通販でアルリー産の皮鎧を買おう。
それに服もだ。
だぼだぼなんで服を着るのが少し嫌だったりする。
スケルトンに合う服はない。
走るのに興が削がれたのでスクーターを買って走らせる。
ポチを後ろに乗せてだ。
ヘルメットのバイザーをスモークにしたから顔が見えないので、スケルトンだとは思われないはず。
途中休憩の時間になった。
「その走る魔道具、凄いのね。私も欲しいわ」
ジェマが寄って来てそう言った。
『ご希望なら出すけど』
「嬉しいわ」
『それとこれは純粋な道具だ。魔力は使ってない』
「そうなの。それはどうでも良い事だわ」
ジェマは休憩中スクーターの乗り方の練習をした。
ものの数分で乗れるようになった。
案外、運動神経が良いな。
「次の街に行ったら乗合馬車は辞めにするわ。スクーターって楽しいから」
『好きにするさ』
「あんた方、この先に行くのはやめなされ」
「おばあさん、どういう事」
「わたしゃ見たんだ。巨大なコウモリが月に照らされてこの先に行くのを」
『コウモリのモンスターぐらいわけないさ』
「悪い事は言わん。あれは伝説のヴァンパイヤじゃろう」
「おばあさんはこの先に行くのね」
「娘夫婦が待っているんじゃ。この事を警告せねばならん」
「分かったわ。気をつけて進むから、安心して」
「娘さんは優しいのう。他の乗客はこの話をするとぼけただの、ただの見間違いだの言いよる」
おばあさんは馬車の中に戻って行った。
「今の話どう思う」
『ヴァンパイヤって言うとアンデッドだよな。どういうモンスターなんだ』
「噛んだ人間をヴァンパイヤにしてしまうのと、日光と銀に弱くて、心臓を貫くと殺せるわ」
『俺の聞いてたのと同じだな。さっきの話に出たコウモリへの変身能力はあるのか』
「聞かないわね。でも上位種かも」
ヴァンパイヤに会ったら能力をコピーできないかな。
金属支配で動いているとも限らないがな。
念のため銀の指輪を魔力通販で買っておこう。
いつしか、空は曇って遠くでは雷が鳴っている。
これは一雨くるかもな。
ジェマは雨を嫌がって馬車に引き上げた。
馬車はゆっくりと進み始め、俺はスクーターにまたがってアクセルを吹かす。
ぽつり雨がヘルメットを濡らす。
やっぱり一雨くるか。
雷の音がさっきより近い。
何となくこの先を暗示しているようで気分が悪い。
雨が土砂降りになって、俺はびしょびしょになった。
張り付く服が気持ち悪くはない。
アンデッドだからな。
雨も今の俺にとっては無いも同然だ。
先行きを暗示しているのなら、平気って事なのかも。
雨の中を走るのが嫌でなくなった。
未来は俺にとっては障害ではない。
そう思えた。




