第166話 おっさん、スキル原理主義の少年と出会う
今日は結社の一回目の会合だ。
みな、思い思いの覆面を被っている。
俺は目出し帽にした。
「では会合を始める。俺は頭領のオーダー。今日の活動は生贄の実態を書いたビラを街の至る所に貼り付ける事だ」
「では、みなさん。平等な社会実現の為に頑張りましょう」
そうリオンが締めくくった。
覆面の集団が夜の街を歩くといったとても怪しい絵面になった。
これでは不味いので、光学迷彩を結社の会員には教えてある。
姿を隠してビラを貼りまくる。
夜回りの兵士がビラを見つけ大騒ぎになり始めた。
「引き上げよう」
次の日の朝。
何食わぬ顔で、街に出て情報収集を始めた。
「ちょっと、奥さん聞いた? スラムの人間を狩って生贄にしているんだって」
「ええ、酷い事ね。2級市民の行方不明の人も生贄にされたんじゃ」
「嫌だわ。怖い怖い」
話は尾ひれが付いて広まっているようだ。
「おい、お前。昨日の夜に怪しい人を見かけなかったか?」
「俺っ。見てないけど」
兵士が通行人から話を聞いている。
裏切り者が出ない限り、秘密結社の事はばれないだろう。
俺は兵士の質問に丁寧に答えてから、路地に入った。
むっ、誰か追いかけられている。
誰だろう。
秘密結社の人間ではないよね。
「待てー、待てと言っている」
兵士達が追いかけていたのはボロを着た少年だった。
少なくとも秘密結社の人間ではないな。
スラムの住人だろうか。
「属性魔導、光学迷彩」
少年を兵士から隠してやった。
「どこに消えた?」
「探すぞ。きっと隠し扉があるはずだ」
「逃したら大目玉だぞ」
「懲罰は嫌だ」
俺は少年が兵士から離れたタイミングを見て、魔導を解除した。
現れた少年に声を掛ける。
「スラムの人間か?」
「あんな奴らと一緒にするな」
「それは悪かった。助けたのも何かの縁だ。話をしてみないか」
「兵士が見失ったから変だと思ったんだ。属性魔導を使われたのはしゃくだけど、ありがとう」
「どういたしまして。飴でも食うか。収納箱」
ポケットに持ってなかったので、アイテムボックスから飴を出す。
「おお、スキルのお導きを」
こいつ、話に出ていた原理主義か。
「お前、スキル原理主義だな」
「ばれたか。でもばれたのが、スキルを持っている人で良かった。聞きたいけどそのスキルの由来は」
「どういう訳だか突然、使えるようになった」
「それなのに属性魔導を受け入れたのか?」
少年が俺に詰め寄る。
「あんた達にとっては俺の行動は堕落なんだろうけど。俺は使える物は使う主義だ」
「わるかった。信徒ではないのだからな」
「一つ聞きたい。スキルオーブを使うのもいけないのか」
「駄目だ。自然にスキルを身につける事こそがより高次の存在になれるのだ」
「よし、ひとつアドバイスをしてやろう。レベルを何とかして上げてから、魔力で壁を作るんだ。そうすると魔力壁というスキルを覚えられる」
「本当か」
「ああ、今俺も覚えている最中だ」
「秘儀だろう。教えてくれて感謝する」
「良いって。それよりなぜ属性魔導はいけないんだ」
「虚無の力だからだ。触媒は消え去って無くなってしまう。それは世界を食い荒らす事に他ならない。いずれ地上の物全てが無くなるだろう」
大げさだな。
ダイヤモンド以外は、触媒で消費したぐらいでは枯渇しないだろう。
宝石魔導士と貴金属魔導士は危ないかもだけど。
「じゃあ、もし魔力で物を生み出すスキルがあったらどうなんだ」
「それを持っている人は救世主だな。そのスキルを身につけられる方法を見つけ出せば、全ては解決する」
ここは魔力通販の事は言わないでおこう。
人に教えられるようなスキルでもないしな。
祭り上げられたら困る。
「俺はムニだ。名前を聞いておこう」
「グレッグだ」
「原理主義の人間に繋ぎを取りたい時はどうしたら良い?」
「三角の中に俺の名前を書くんだ。それを目立たない所に貼っておけばいい。いずれ信徒が訪ねてくる」
「これも何かの縁だ。魔力壁のレクチャーをこれからもしてやるよ」
「そうかありがたい」
そう言ってグレッグは去って行った。
原理主義の連中は使えるかな。
表立っては無理だろうな。
情報屋として使えないかな。
秘密結社の人間は1級市民だから、持っている情報が偏る。
市井の情報も知っておきたいところだ。




