第162話 おっさん、生贄を阻止する
ダイヤモンド魔導士との対決はまだ先の予定だ。
現状では力を蓄えている最中だ。
宝石魔導士会は徐々に影響力を強めている。
ただ、第三位の金属魔導士会にも現状では手も足も出ない。
ジルコニアとアルミとチタンだけじゃあなぁ。
カルシウムを加えるべきだろうか。
カルシウムの魔導士は骨魔導士と呼ばれている。
石灰石なんかも触媒として使えるので、そこそこは強い。
ただ、そこそこなんだよな。
カルサイトという宝石があるので宝石魔導士会に勧誘できる。
炭酸カルシウムだから触媒としては問題ない。
値段も直径7センチの玉が2000円ほどだ。
そんなに高くない。
さて、勧誘すべきか。
だがな、たぶん感謝されないだろう。
触媒は石灰石で事足りてるはずだ。
少なくても不遇ではない。
諦めるか。
そう考えながらスラムを歩く。
「仕事がほしい奴は集まれ」
恐れている事が起きてしまった。
ヤクザみたいな人間がスラムで人を集めている。
また、生贄にするのを再開したのだな。
ここで暴れると俺が指名手配されて、ダイヤモンド魔導士辺りが討伐に来るのだろうな。
我慢だ。
俺は男達の後をこっそりとつけた。
スラムの人間は馬車で連れ去られるところだった。
「属性魔導、光学迷彩」
光を捻じ曲げて光学迷彩を再現した。
服をスラムで着てた奴に着替え、馬車に乗り込む。
光学迷彩が切れて俺が急に現れ、スラムの人間がぎょっとした顔を見せる。
「しー、静かに。仕事を与えるとか言っていたが、あれは嘘だ。このままだとお前達は生贄にされるぞ」
「本当か? 手枷をつけられたから、胡散臭いとは思っていたが、そんな事だったとはな」
「声が大きい。馬車が停まったら、手枷を外す。皆は逃げろ」
「そうか、ありがたい」
しばらくしてガクンと衝撃がきて馬車が停まった。
「属性魔導、手枷よ切れろ」
俺は馬車から飛び降りた。
「お前は誰だ」
「地獄からの使者だ。属性魔導、風の刃よ舞え」
「魔導士が反逆したぞ」
「任せろ。属性魔導、火の玉よ焼き尽くせ」
敵の魔導士が俺に向かって50センチほどの火の玉を発射した。
「属性魔導、火の玉よ相殺しろ」
1メートルのほどの火の玉がぶつかり消えた。
「属性魔導、加速。属性魔導、電撃」
背後に回り電撃をかましてやった。
「ぐわっ」
魔導士の手から岩塩が転がる。
こいつ、塩魔導士だったのだな。
「属性魔導、風の刃よ舞え」
男達が風の刃で倒されていく。
さてと、外にいる男達は全て片付いた。
研究所に入ろうとしたが、扉には鍵が掛かっている。
「属性魔導、破壊」
「なんだ。敵襲か」
そこからは虐殺だった。
魔導士が何人かいたが、骨魔導士と土魔導士がいただけだった。
生贄の魔法陣を完膚なきまでに破壊する。
牢が幾つかあったが、全て空だった。
生贄の儀式は終わった後なのかは分からないが、儀式は行われていないと思いたい。
研究所を後にして、帰路につきながら考える。
自己満足だな。
この国ではこのような事は沢山行われているはずだ。
街は一つではない。
今この瞬間も行われているかもしれない。
それにこの事はこの国に限った事じゃないのかもな。
俺はどうしたらいいんだろうか。
あの少女の復讐を遂げるだけでいいのだろうか。
とても世界に対して責任は負えない。
へとへとになって街まで帰ってきた。
「酷い顔。虐められたの」
「アニータ、俺には救世主は無理だ」
「そんなの誰にだって無理よ」
「そうだよな。やれる事をやるしかないか」
「ムニだけじゃないんだよ」
「そうだよな。異世界を救おうなんて傲慢も良い所だ。よし、ダンジョンをバンバン討伐するぞ。そして強くなって大暴れしてやる。世界の行く末なんて知るもんか。気分の赴くままに生きてやる」
「元気が出たみたいね」
「ああ、元気が少し出た。異世界は異世界の人間がなんとかすべきだ。目に入ったなら対処するが、他はどうしようもない。頑張れよ、アニータ。この世界に生きる人間全員の肩に行く末が掛かっている」
「うん、頑張る」
そうだ、一人で出来る事など知れている。
俺は俺に出来る事をやろう。




