第124話 おっさん、釣り具を売る
武器屋で情報収集だ。
ダンジョンコアから吸い取った魔力で砥石を沢山仕入れたので話のきっかけはある。
前の街でやったように砥石を売ると共に、奴らの人相書きを渡す。
「お前さん、釣り針は持ってないか。切らしてしまってな。作ればいいんだが、材料の針金も切らしてしまってな」
「ちょっと待って」
俺は店から出ると魔力通販で釣り針を何種類か買った。
「お待たせ」
「ほう、透明な糸につけた釣り針か。これは売れそうだな。こっちは何だ。針先にトゲが逆さについている」
「それは返しといって掛かった魚が抜けにくくなる工夫だ」
「なるほどね。どうやって作る」
「作り方なんて知らない。俺はただの行商人だからな」
「まあ、見本があれば真似するのも容易いか。透明な糸に関しては皆目、見当がつかないな。透明な糸をありったけ買おう」
「そう言うと思ったから仕入れといた」
「仕入れた? 何時だ」
「えーと、旅に出る前」
危ない危ない。
店の前で仕入れたなんて言おうものなら大騒動だ。
「そうか、海沿いに行くのなら、釣り糸を持って行くのは正しい選択だ」
「そうなんだよ」
「この辺りじゃ馬の毛を釣り糸に使っているが、切れやすくてな。少し仕舞って目を離すと虫に食われるあんばいでな」
「これは虫は食わないよ。長い間仕舞っておくと風化はするが。切れるのはどうなんだろ、馬の毛と比べた事はないな」
しまった。
馬の毛を使った事がないなんて言ったら、異世界人だと疑われる。
「釣りはしないのか」
「ああ、やらない」
ふう、なんか今日は失言が多いな。
「だが、釣り具は持っている」
「無いと客を失望させるからな」
「じゃあ、ありったけ出せよ」
困ったな。
後何を出したら良いだろう。
鉛の重りにウキぐらいでいいかな。
タモと釣り竿とリールは出さなくても良いだろう。
俺はまた店の前で魔力通販を使いそれらを出した。
「ほう、この鉛の玉に切れ込みを入れるのは良いな。良く考えられている。ウキは普通だな」
「それね。それにも一工夫あるんだよ。暗闇でも光る」
「ほう、そんな仕掛けが」
なんか、非常に嫌な予感がする。
宿でそんな気がしていたら、武器店の店主が駆け込んで来た。
「テグスと針を追加で欲しい。時間はいくら掛かっても良いから、送ってくれ。金は半金を前払いしよう」
「発掘品のバイクを飛ばせば、一日で品物を取って来られる」
「そうかい。頼むよ」
たぶん、ウキも追加注文が来るな。
ナメクジのモンスターを生贄に魔力通販したいところだけれど、やつらは遅いが動くからな。
そうかタモだ。
網を使えば良い。
農業用にナイロンの丈夫な網がある。
俺はさっそくダンジョンに行ってモンスターを網に閉じ込めた。
モンスターを生贄の魔力回路の上に置いたが、もぞもぞと動く。
駄目だな。
動いてしまう。
四方を杭で固定すれば。
石の床に杭を打つのは難しいな。
ドリルを手に。
「分解」
石の床に穴が開く。
石工用のネジで網を固定した。
ふぅ、上手くいったぞ。
スライムなんかだと溶解液で網を溶かされそうだ。
ローパーはどうだろうか。
ローパーに網をかけようとにじり寄る。
ぱしっと触手で手を打たれた。
何しやがるんだ痛いだろ。
魔力壁の訓練はさんざんやったので、それをしながら近づく。
顔面を痛打された。
不完全ながらも魔力壁が働いて緩和されているようだ。
チャンス。
網をばさっと掛けてローパーを捕らえた。
網の中に入れてしまえばこっちのもの。
生贄になってもらった。
それから、モンスターを何体も生贄に釣り具を買う。
なんで俺はこんな事をしてるんだ。
ふと我に返る。
もちろん情報収集の為だ。
魔法使いのジェリが武器屋に来る確率は低いがゼロじゃない。
こういう細かい所からやっていかないと考えて自分を納得させる。
「さっきから、見てたが何をやっているんだ」
冒険者にそう言われた。
「ダンジョンの稼ぎは少ないだろう。モンスターから魔力を頂くのさ」
「なんか手間と利益が釣り合わなそうな作業だな」
「ああ、儲からない」
「ひとつ俺にもやらしてみてくれないか」
ローパーに触手で散々打たれた冒険者は儲からないのを悟ったみたいだ。
帰りに移植したメタシン草を見る。
まだ、むしられていないな。
考えてみれば変わった物がダンジョンにあった場合にすぐに手を出す奴は長生きしない。
そういう事だ。




