第122話 おっさん、ライニーアに着く
ビッグスクーターに二人乗りして風を切る。
潮の香りがしてきた。
今日は風が強い。
ライニーアはもうすぐだと思う。
「このバイクとても良いわ。魔力駆動でないところが減点ね。あの液体が手に入らないから売れないわ」
「これは売り物じゃない」
「あなたのスキルであの変な臭いの液体を作っているのだろうけど、あれはどういう原理なの」
「プランクトンの死骸が長い間降り積もり出来る液体を精製したものだ」
「プランクトン?」
「小さい生物さ。俺も詳しくは知らん」
「それをスキルで再現したって事よね」
「ああ、そうだ」
「その知識はどこで学んだの」
「学校でだ」
「学生だったの。ふーん、エリートなんだ」
エリートって言われてもな。
三流大学出をエリートとはな。
まあ、地球では会社を経営して勝ち組と言っても過言ではないが、この世界では仇討ちのしがないおっさんだ。
「おっ、見えて来たぞあれが、ライニーアだろう」
ライニーアは中心に電波塔がそびえ立ち、周りをビルが取り囲んでいた。
そしてその周りには住宅地が、その中に見張り台がいくつも見られた。
水路が海まで伸びていて、城壁がないのが地球の都市を思わせる。
「モンスターが攻めて来たら、城壁なしじゃつらいだろ」
「見張り台にスナイパーを多数配置して守っているらしいわ」
「なるほどな」
俺達はスクーターを検問所につけた。
旅人が羨ましそうにスクーターを見る。
発掘品だと思っているのだろうな。
アイテムボックスにそそくさとスクーターをしまう。
「次の方」
「ご苦労様」
「街に寄った目的は?」
「商売だよ。それと人探しだな」
「面倒は起こさない様に。入市税は銅貨10枚だ」
「はいよ」
税金を払い、街に入る。
パティが勧めた宿はやっぱり下級の宿だった。
砥石を沢山売って懐は温かいのでもっと豪華な宿でもいいのに。
「この街に立ち寄ったのか分からない。やはり10日を期限として動こう」
「ええ、いいわよ。それで何か商材を頂戴」
「何だ、売り物がないのか」
「生憎とアイテムボックスは持ってないし。発掘品はかさばるのが多いから、ほとんど店に置いて来たわ。小物は前の街で売れちゃったから」
「そうだな。缶ビールを出してやろう。それ持って酒場を巡るんだな」
「取り分はあなたが6。私が4でいいかしら」
「ああ、構わない」
缶ビールを1000本ぐらい出してやった。
「足りないわ」
「売れたら追加するよ。遠慮なく言ってくれ」
「それじゃ、必要経費を頂戴。荷物持ちを雇いたいわ」
「ちゃっかりしてるな。いいだろ経費はこっちで持ってやる。後で清算しよう」
「今欲しいんだけどな」
「仕方ない。金貨一枚を出す。無駄遣いするなよ」
宿の人間に一番近いダンジョンを聞いて、スクーターを走らせる。
ダンジョンに着いたので近くにいる冒険者に話し掛ける。
「初めて来たんだが、このダンジョンはどうだ」
「儲からないな。魔石とトラップの屑鉄だけじゃやってられない」
「モンスターは強いのか」
「いんや弱い部類だな。ナメクジとかスライムとかローパーが出てくる。塩魔法使いがいれば無双できるが。塩が高いので割に合わん」
「なるほどね」
「俺も漁に出られる日はダンジョンには来ない。今日は風が強いからな」
「ありがと、参考になった」
通路を歩いていると、さっそくナメクジのモンスターと遭遇した。
メイスで叩いたら体液が飛び散らないだろうか。
カタツムリは綺麗でナメクジは汚い印象があるんだよな。
どっちも同じ仲間なのに。
メイスで叩いてモンスターに退場してもらった。
モンスターの体液が掛かった床に、メタシン草を苔と一緒に移植する。
駄目だな。
浅い所に置いたら速攻でむしられる。
かと言って、攻略している暇はない。
モンスターがメタシン草を食う事は考えなくていいと思う。
カタツムリが食わないのだから、ナメクジも食わんだろう。
俺は紫の食用色素とアルリーの痒くなる接着剤をメタシン草に塗った。
フードをかぶり、帰りにギルドに寄る事にした。
「依頼ですか」
受付嬢が訪ねてきた。
「いや情報だな」
「情報はいつでも歓迎です」
「紫の草がダンジョンに生えているが、毒草で触ったらかぶれるぜ。放置するのが一番だな。掲示板の警告の所に貼っておいてほしい」
「早急に調査後、対処します。情報ありがとうございました」
そして、俺は尋ね人依頼の結果を受け取った。
どの都市のギルドにもやつらは本名で顔を出してない。
そうだろなとは思った。
ここでも探偵の真似事をするしかないのか。




