第12話 Side:エイシス 暗雲
「リーダーどうするよ」
シーマスが言った。
「金で雇ったごろつき共の事かい」
「まだ続けるのか」
「落とし穴に落ちたんだ。今頃はダンジョンに吸収されてるはずだ」
「その後モンスターが発生しなくなっただろ。万が一がある」
「あの男はダンジョンで死んだんだ。もう忘れる事にする。ごろつきは解雇するよ」
「でも、怪しい人がいたらしいぜ」
「顔は見ていないんだろ。男女のペアで列から離れたから追いかけたら、返り討ちにあったんだよね」
「なんか嫌な予感がするんだ」
「シーマスの気のせいだよきっと」
「なら良いが」
今日はカイザーウルフの依頼だ。
僕達は標的が出没する森に入った。
おびき寄せる為の鹿を狩ってしばらく待つ。
「リーダー囲まれている。その数30」
「不味い。突破するよ」
「拘束!」
「今だ」
僕達はほうほうの体で逃げ出した。
◆◆◆
今日こそは失敗しない。
僕達はグリフォン討伐に向った。
出没する山に入り獲物を待った。
「来るよ」
グリフォンが空から現れ僕達に向って急降下してきた。
ディドルが先頭で盾を構える。
グリフォンと激突してディドルは跳ね飛ばされた。
僕は剣を抜くと切りかかったが、グリフォンは素早く空に舞い上がり、再び攻撃の態勢になった。
なんとか体勢を立て直したディドルが盾を構える。
再び激突。
ディドルは跳ね飛ばされ転がった。
斬りかかったシーマスが爪で反対に切り裂かれダメージを負う。
「不味い、撤退だ」
今回も失敗だ。
◆◆◆
もう失敗は許されない。
今日の討伐はミスリルゴーレムだ。
僕達はミスリルゴーレムが居る遺跡へと足を運んだ。
僕達が到着してもミスリルゴーレムは気がついていないようだった。
「手はず通りに頼むよ」
「拘束!」
ゴーレムの足元から石の触手が這い上がって拘束する。
ゴーレムが気合を入れたように見えた。
次の瞬間。
拘束していた石の触手が砕け散る。
僕とシーマスが切りかかるが、ミスリルの堅い体に弾かれて、ダメージは与えられなかった。
ディドルが盾でゴーレムの攻撃を受けるが、跳ね飛ばされた。
そして、ミスリルゴーレムから追い討ちの魔法が飛んでくる。
ディドルは間一髪、盾でガード。
完全にやられている。
手も足も出ない。
「撤退だ。撤退するよ」
◆◆◆
何故だ。何故依頼に失敗する。
たかがポーターが居なくなっただけで。
やった依頼はカイザーウルフ、グリフォン、ミスリルゴーレムの討伐だ。
どの依頼も過去に成功した依頼だった。
僕達は現在違約金の借金の利子を払うため格下の相手をダンジョンで討伐している。
ちょっと前まではSランク間近ですと言われていたのに今では降格の危機。
「リーダー不味いんじゃ」
シーマスが宿の食堂でエールを片手に文句を言って来た。
「そうはいっても、カイザーウルフの時に君は接近に気がつかなかったよね」
僕が反論すると、シーマスはエールを乱暴にテーブルに置いた。
「罠があれば一匹ずつ始末できたはずだ」
皮肉気にシーマスは言った。
あの時の事を思い出す。
カイザーウルフの時は罠を持っていけなくて、おびき寄せる為に鹿を狩って待ち構えた。
そうしたら、接近に気づかず予想外の大きさの群れに囲まれ僕達は必死で逃げ回るはめに。
「粗探し、みっともない」
冷静なディドルの言葉が僕はやけに癇に障った。
「君もグリフォン戦の時、襲い掛かられ盾を吹き飛ばされて地面を転がっていただけじゃないか」
「面目ない」
グリフォンの時は小型のバリスタを持っていけず、空中にいる相手に手も足も出なかった。
「そうは言うけどリーダー、野営の時の快適さが今までと違うから実力が発揮できないんだよ」
ビジまでもが文句を言って来た。どうして僕を責める。
「君もゴーレムの時に拘束の魔法を使ったけど、効果が無くって振りほどかれてたよね」
僕はビジを睨みつけて指摘した。
「ミスリルゴーレムのパワーに対抗するには鋼鉄の鎖でもなきゃ駄目だ」
ビジは顔を真っ赤にして言いつのる。
ミスリルゴーレムの時は相手を転ばせるのに使う鎖や打撃を与える為の重いハンマーを持っていけず、いいようにされた。
「ポーターが必要だ」
ディドルが冷静に述べた
「それもアイテムボックスを持っている奴が必要だ」
シーマスが吐き捨てるように言った。
「賛成、賛成、賛成!」
ビジが連呼する。
「分かったそれがパーティの総意なら僕は従うよ」
僕はこんなところで終わる人間じゃないんだ。
冒険者学校を首席で卒業し五年でAランクになったエリートなんだから、Sランクだって夢じゃないはず。




