第110話 おっさん、捜査をする
そこはビルが立ち並ぶ遺跡で、ヨーク遺跡群と呼ばれていた。
別名は初心者の遺跡だ。
こんなにビルが沢山あるとあいつらを探すのも一苦労だな。
ここは発掘されてない遺跡はほとんどないほど人の手が入っている。
ただ、金属のたぐいは沢山あるので、ボウズになる率は低くて、モンスターの出没もほとんどない。
パティと別れ、俺は金属買取所があったのでそこで話を聞く事にした。
「この特徴の四人組なんだが、見なかったか」
人相書きをカウンターに置いて尋ねると同時に銀貨を手に握らせた。
「見かけたぞ」
「何か言ってなかったか」
「ああ、それならこんな稼ぎが少ない遺跡は嫌だと言っていたな」
稼ぎが少ないとぼやいていたという事は。
すでに立ち去った後かも知れない。
「次はどこに向かうとか、言ってなかったか」
「さぁな。だが、たぶんホークトンじゃないかな。ここからステップアップする奴は大抵そこに向かう」
「じゃましたな」
金属買取の店を出て、パティと合流する。
「どうだった」
「何日も前に立ち寄ったみたいね」
ここで足取りが追えたって事はパティはダカードのスパイじゃないって事だ。
「次はホークトンじゃないかと金属買取所の主はそう言っていた」
「じゃ次はそこね」
次の遺跡を目指して俺達は自転車をこぐ。
馬車より遅いが仕方ない。
俺は馬に乗れない。
バイクを買うほどの魔力もない。
一万円分の魔力で買える移動手段がこれだっただけだ。
ホークトン遺跡に着いたが、そこは100階以上ある高層ビルだった。
これはへたなダンジョンより攻略は大変だな。
中のモンスターは何喰って生きているんだろう。
冒険者が来なくなったら飢え死にしたりしてな。
「あいつらが居るかどうかはすぐに分かる」
「もったいぶってないで教えてよ」
「馬車だ。ダカードは馬を手放す事は絶対にしないだろうから、馬車で移動しているはずだ。遺跡には馬車は停めてなかったから居ない」
「なるほどね。それで、どうするのよ」
「遺跡の周りは土だ。わだちの跡が残っているはずだ」
「なるほどね」
俺は馬車のわだちを見つけ幅を測った。
「あいらの馬車と同じ幅だ。馬車のメンテナンスは俺がやっていたから分かる」
「でも、同じ車輪を使っている別の馬車かも」
「そうだな」
「何しているの」
ここで登場するのは透明な梱包テープ。
それで舗装された境目で車輪の跡を写し取る。
「舗装した道には土の跡がくっきりとでてる。車輪は木でできているから傷が出来る。同じ車輪の跡は二つはないって事だ」
「これが彼の馬車って確証があるの」
「それはないが。この痕跡を追うしかない」
途中舗装が途切れている所で車輪の跡を写し取った。
そして、最初の車輪の跡を比べてみる。
あの馬車はこの道を通っていた。
「分かれ道だ。どうしよう」
「右は穀倉地帯よ。左はロスタークのダンジョンだわ」
「よし、ロスタークに向かって行こう」
ちょうどいい事に舗装が途切れている。
舗装が復活したところで車輪の跡を取る。
「駄目だ。痕跡が判断つかない。ここまで追えてたのが奇跡なんだよ」
「仕方ないわね。ロスタークに賭けましょ。ところで車輪の痕跡を写し取った物は発掘品?」
「そうだが何か」
「そんな物の話を聞いた事がなかったから、気になったのよ」
言い訳が少し苦しいか。
「未知の物が発掘品という定義なら、発掘品だな」
「便利な物もあるのね。それをたまたま持っていたっていうのが信じられないわね」
「スキルで作ったんだよ。これでいいか」
「冒険者はスキルを秘密にするって言うから、これ以上の詮索はしないわ」
「それより、ダカードらは遺跡を諦めてダンジョン攻略に戻ったのだろうか。どう思う」
「ホークトンで得た宝をロスタークに売りに行ったんじゃないの」
「そういう考え方も出来るか」
城塞都市が見えてきた。
あそこがロスタークだな。
大きそうな街だ。
ダンジョンの人気はないというのにダンジョンの上に街が出来ているとはな。
「ダンジョンは寂れているのに、ロスタークってなんでこんなにも栄えているんだ」
「それね。遺跡群が街のもとになっているのよ。ダンジョンと言うより遺跡の街ね」
聞いたところ、今でも遺跡に住んでいるらしい。
遺跡の中は冷暖房完備の水道も生きているとの事。
俺も現代のアパートが借りられるのなら住みたいと思う。




