魔女とクッキーの増やし方
「魔女様! 魔女様!」
「そんなに焦って喋らなくても。私は、どこにも行かないわよ。……で? 一体何のようかしら…?」
イリヤは、お皿一杯にあるクッキーを、口に含み、もぐもぐと私の名を呼ぶ。
「……私。今とても幸せです。……なんですか? この、…クッキー…? っと、いうやつは。一口食べただけで、もう私は、これの虜になってしまいました!」
イリヤは両手いっぱいにクッキーを持ち。そして口の中に頬張る。
私が召喚した、『悪魔』。イリヤは。……どうやら、クッキーがお気に入りのようだ。
クッキーぐらいで、釣られるなんて、くっくっくっ。……ああ。……どうゆう風に、…この子で。遊ぼうかしら。
「……ねぇ。イリヤ。あなた、クッキーは好き?」
「はい! このような物。地獄では、なかなかお目にかかれませんからね。特に、このサクサクとした食感。そして、口の中いっぱいに広がる上品な甘さが。私を祝福の階段へと、導いてくれるような。…そんな気分になります。ねぇ〜。魔女様〜。……私。もっと、いっぱいクッキーが欲しいです」
「くすくすくす、……そう。そこまで気に入ってくれたのなら。あなたの為に、わざわざクッキーを用意した甲斐があったわ。……でもね。…残念。あなたのその手にあるクッキーが。最後なの。…だから。大事に、お食べなさい」
「そんなぁ!?!? 魔女様ぁッ〜。もう本当に、これが最後のクッキーなんですかッぁ?! まだまだこの味を味わっていたいですぅ―――!!!!」
「クックックッ………。さっきも言ったでしょ。それが、『正真正銘』。最後のクッキーよ」
それを聞いたイリヤは……鳩が豆鉄砲を食らったような。面白い顔をしていたわ。
クックックッ。……ああ。飽きない。……当分の間は。
……私は、最高の『悪魔』を、手に入れたかもしれない。
「……ねえ。イリヤ。もしそのクッキーが増やせるとしら、どうする?」
「そんなこと、出来るんですかぁッ?!」
「えぇ〜。だって私、……魔女だから。すくすくすく……」
イリヤの純粋な瞳が私を見つめる。
「魔女様。どうか、このクッキーを増やしてください!」
「それは願いかしら……?」
「…はい、私の願いです」
「クックックッ、……いぃ? イリヤ。願うことは、自由だけど。それが叶うかどうかは、また別の話。何かを、手に入れたいと思うのなら。それと同時に。それに似合う、何かを失わなくてはならい。これが、この世界における、『バランス』。あるいは、『均衡』。とも呼べるわね。どちらが多くても。少なくてもダメなの。だから、この世には。多くの矛盾が存在する。それは。世界のバランスを取るための、『バグ』みたいなものよ。おっと。少し話が逸れたわね。……話を元に戻しましょうか。つまり、私が何を言いたいのかと言うと。……イリヤは。そのクッキーを増やせるのなら、その方法は、 "問わない" の、かと、言いたいわけ」
「あっ……。はい! 増やせるのなら、何でも…」
「くすくすくすくす。……いいわ。増やしてあげる。まず初めに、そのクッキーをあなたのポケットの中に入れなさい」
「こうですか?」
イリヤは、ポケットの中に、クッキーを入れる。
「そうそう。いい子ね。じゃあ次は、そのクッキーが入っているポケットを、軽く叩くの。……ただし注意。あまり強く叩きすぎると、クッキーが、消えてなくなっちゃうから。クックックッ」
「わ、わかりました!」
イリヤは、私が言ったように。ポケットの中に入っているクッキーを、叩いて見せたわ。
「……これでいいでしょうか……?」
「……えぇ、上出来よ。それでクッキーは2枚に増えたわ」
その言葉にイリヤは喜び、ポケットからクッキーを取り出そうとした。
「ちょっと待った。イリヤは、本当に2枚だけでいいの? もっと、多くのクッキーを食べたいんじゃない?」
「あ、……はい! できることなら、お腹いっぱい食べたいです!!」
「じゃあ。一回、叩いたくらいじゃ。満足出来ないんじゃない? もっと叩けば、増えるわよ?」
「本当ですか!?」
「えぇー。試しにやってみたら…? イリヤが欲しいと思う、枚数分ぐらいは。増えるかもよ……?」
その言葉を、間に受けたイリヤは……。ポケットを、「パン、パン!」と、叩く。
景気の良いメロディーとともに。私の心も、満たされていく。
……そして。ある程度叩いたイリヤは。ポケットの中に手を入れた。
ポケットの中に手を入れたイリヤは、なんだか。複雑な表現をしている。
「どうしたの? 浮かない顔ね?」
「…………魔女様。……クッキーが。……消えてなくまりました……」
「へぇ〜。この世の中には、そういった、おかしな事も起こるのねぇ〜」
「私のクッキー……。どこに消えたのでしょうか……?」
「砂になったんじゃない……? ほら。あなたの内ポケットを、よく調べてごらんなさい」
イリヤは私に言われて、内ポケットを調べる。するとポケットの中から、砂のようなものが出てきた。
「……私。…いつの間に、ポケットの中に、砂を入れたんでしょうか? 入れた記憶が、ないんですか……?」
「くすくすくすくす。……さぁ? 私はあなたじゃないから。そんなの、 "わからない" 、わよ。くすくすくす……」
「私の……クッキー……ッ。……うっうううううう――」
「ハァー。別に泣かなくても良いじゃない…? クッキーはまた買ってあげるから」
「……私は、……あのクッキーがよかったんです……」
「どうして? クッキーはまた、買ってあげるって言ってるじゃない?」
イリヤは真っ直ぐ私を見つめる。
「……魔女様と初めて出会って。……初めて。私に、くれたものだから……」
「…………」
……この子には………勝てないわね……。
「ハァー、わかった。……でもね。イリヤ…。あのクッキーはもう元の形には戻らないの。それは。あなたが潰してしまったから。一度形を失ったものは、もう元の形には戻らない。……憶えておきなさい。この世に、永遠に続くものなど "ありはしない" 。だからこそ、今のこの一瞬一瞬を大切にしていかなくてはならない。これは、生きる者としての。最低限の義務よ。だから。……あなたからその生きる喜びを奪った私を。……どうか。許して欲しい」
「……魔女様…? ……一体、何の話ですか……?」
「作ってあげる。……甘〜い甘〜いクッキーを。……買った物ではなく。…私の、……手作りでね……?」
「魔女様!!」
あなたも一つどうかしら? ……魔女が作る。甘〜い甘〜いクッキーを。……さあ。召し上がれ――
ここまで見て頂き、ありがとうございました。
普段、こんなことばかり。想像! いえ。妄想しています。と言うか、恥ずかしいです!!
まあ、……でも。少しでも、多くの人の心に届いたのなら。コレはこれで、アリなのかなって。思ってます。
でわでわ。