魔女の暇潰し
「……あぁ、…暇ね。……すごく暇。こう退屈だと心が擦り切れてしまいそうになる」
時間はいくらでもある。……それも無限に。決して進むことのない秒針を見るのにも、そもそも飽きた。
昨日は何をしたっけ? そもそも、今日はいつ? 何日? 何曜?
「…………」
はぁー、つまらない……。何か面白いことはないかしら…?
魔女は周りを見渡す。
「………これは。食べかけのクッキー…?」
魔女は地面に落ちていたクッキーを拾い、そして、何かを思いついたようにニヤニヤと笑う。
「くすくすくすくすくす。……そうだ。いいことを思いついた。このクッキーを餌に、何か面白いものが釣れるかもしれない」
魔女はお皿の上にクッキーを乗せ、……そして、呪文を唱える。
「さあさあ、…おいでなさい。地獄の門を潜りし悪魔たちよ。わたしの呼び声に答えて、…汝、その姿を私に見せよ…!」
お皿の上に、丸い魔法陣が浮かび上がる。……そして、その魔法陣の中から姿を見せたのは、小柄な幼女だった。
その幼女の頭の上には、犬のような耳が生えており、手から首。そして足へと向かって、一つの鎖が幼女の体をがんじがらめに繋ぎ止めていた。
「……あなた。名前は…?」
「お初にお目にかかります。私、『地獄の番犬』こと、イリアと申します。…この度は、偉大な魔女様に召喚していただき、このイリア! とても嬉しく思います!」
あらあら、これはまた、とても可愛いのが出てきたわね。……私、幼女で着せ替えを楽しむ趣味など、ないんだけど。さて、どうしようかしら。
「あなた、とても苦しそうね。………その鎖は、あなたのファッションの一部なのかしら…? それともそう言った性癖の持ち主? ……くすくすくすくす」
「恥ずかしながら、これは神々との戦いの時に、受けた鎖でありまして、…………その。お恥ずかしい…」
ほ〜う。……この子、見た目はかなりか弱そうなのに、神と一線渡り合ったと言うのか。これは面白い。……いい悪魔を引いたかもしれない。
「……その鎖、解いてあげようか?」
「この鎖をですか?! 失礼ながら、いくら魔女様でも、神々の創りし、……この鎖を解くなど」
この子は、私がこの鎖を解くことができないと確信。いや、決めつけている。
たしかに、私の力を持ってしても、神々の創りし鎖を解くことは難しいかもしれない。……だが。それは、ただ難しいというだけであって。私の口から、出来ないとは、一言も言っていない。
この子に、“私の奇跡を見せてあげる!“
「目を閉じて、……そして、元の自分の姿を想像するの。あなたは一体、どんな姿をしているのかしら?」
幼女は魔女が言ったように目を閉じ、そして想像する。
「……………っ!」
ガチャガチャと、重い物が地面に落ちる。
「す、すごいです!? 神々の創りし鎖を解くなて!! 一体、どんな魔法を使ったんですか?!」
「魔法の根源は、……信じる力。ただ、念じているだけでは魔法を使うことはできない。魔女はよく魔法でなんでも解決出来ると勘違いされることが多いけど。実際のところは、魔法は万能じゃない。……魔法は心が作り出すもの。小さい頃パパかママに何かお願い事をしたことはないかしら。…たとえば。パパと一緒にお風呂に入りたいとか、ママと一緒にお布団で寝たいとか、そういったものは。いったい、どこからやってくるのかしら。……わからない。…願いよ。その純粋な気持ち、願いが。その奇跡を生むの。そこに大きい小さいは関係ない。そういった小さな奇跡こそが、魔法なの。そして、あたなのその祈りが、ただ届いただけ。わたし一人の力では、……何も起こらなかった。…本当に奇跡ね」
そう。魔法は信じる力。信じる心がなくては魔法は使うことはできない。……そして。わたしはそんな魔法に、感謝する。
これこそが、本来の魔法の在り方なのだ。
ここまで見て頂き、ありがとうございました!
明日は、クッキーの増やし方! みたいな話を作りたいと思います。
お楽しみに!