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シルス救出大作戦!3

この作品は、ノベルアップ+にも掲載しています。


「ダークエルフ!?」


 どかっ!


「うあっ!!」


 浴衣姿のままのフェルヴェルが音も無くどこからか現れた。

 小さな身体から想像もつかないような強烈なハイキックを受けてファイスが吹き飛ぶ。


 瞬時にガードして頭部への直撃は避けたが、ファイスの両手は強く痺れてしまい、スキルは使えそうに無い。

 あと数分早ければ見つからずに逃げられたかも知れない。しかし、今さらそれを嘆いても前に進めない。


 今出来る最善の方法は……


「私が相手するよ」


 ファルナルークがシルスを庇うようにダークエルフ、フェルヴェルとの間に割って入る。


「オカシナ匂いがスルと思ったら……デカオンナ!オマエ、ウットーしいナ!」


 言うと同時にフェルヴェルが背中を見せたかと思うと、身長の割りに長い脚が斜め下からファルナルークの顔面めがけて伸びる。


 虚をついた筈の蹴りをファルナルークは半身引いただけで避けてみせた。


「!?っこんニャロ!」


 続け様に放ったのは精霊魔法。

 呪文詠唱も精霊召喚もせずに、手印のみで火の玉を両手に発導し、至近距離で顔面を狙って放つ。

 フェルヴェルが手印を刻むわずかな一瞬が、ファルナルークにとっては先読みの好機となり反撃への余裕が生じた。


 ――モーションが大き過ぎだし、隙だらけだな……甘く見ないでね!


 素早く身体を反転させ、フェルヴェルの放つ火の玉を交わす。

 体重はフェルヴェルの方が軽い。素早さも反射神経もフェルヴェルが上回っている筈である。

 だが、体術では圧倒的にファルナルークが格段に上だった。


 火の玉を放ち勢いそのままに、フェイント膝蹴りからの後ろ回し蹴り。

 捉えた!と思ったのも束の間。


「アレ!?キエタっ?」


 死角をつきフェルヴェルの視界から一瞬で消えてみせるファルナルーク。


「こっちよ」 


 ずどん!


「ウゲ!」


 強烈なカウンターの体当たり一撃でフェルヴェルは白目を剥いてうつ伏せに倒れた。


「当て身一発かー!スゲーな、ファル!」


 フェルヴェルに蹴られた腕をさすりながらファルナルークの体術に感嘆するファイス。


「ねー!スゴいっしょ!怒らせないほうが身のタメだよー?流転空(るてんくう)っていう体術なんだよっ!」


「なんかうれしそーだな、シュレス」

「ファルは、自慢の友だからね!ふふーん♪」


『流転空(るてんくう)』

 流れ転じて空(から)と成す。

 相手の攻の力を利用して打ち返すカウンター重視の体術。この島に伝わる古武術の一種である。

 剣術とともに体術もこなすファルナルークを自慢するシュレスは満面の笑みを浮かべる。


「フェルヴェルちゃん、大丈夫かな……?」


 連れ去られておいてなお、いつもの黄色い歓声をあげずに倒れたフェルヴェルを気遣うシルス。

 シルスの良い面ではあるが、まだまだ甘い部分でもある。


「……浴衣姿のダークエルフかあ……カワイーね、この子……」


 シュレスが、ぐたっと横たわるフェルヴェルの長い耳をじーっと見つめる。


「「シュレス!?」さん!?」

 ファルナルークとシルスが思わずハモった。


「耳、舐めちゃダメですよっ!?」

「……ちょっとだけ」

「何を言ってるの、もうっ!」


 友達の変態行為を見過ごす訳にはいかない。

 ファルナルークはフェルヴェルを植え込みの陰に横たわらせて隠し、どことなく名残惜しそうなシュレスの襟をわしっと掴み寄宿舎を後にする。


「さあ!すたこらさっさと退散しよう!」

 と、ファイスが急かすが。


「あれっ!?たっ……立てましぇん!」


 お尻を打ったからとか何処か怪我をしたとかではなく、シルスは単に腰を抜かしただけのようだ。


「肩、貸し……」てあげようか、とファルナルークが言いかけた所に。


「なんだよ、シルス。腰抜かしたのかー?オレがおぶってってやるよ!」


「えー!イヤですよー!」

「つべこべ言わないの!おりゃー!」


 無理矢理シルスを担ぐようにおんぶすると、もと来た裏手に向かって全力疾走するファイス。体力自慢(バカ)の得意分野である。


「わわっ!わあ!すごーい!はやーい!ウマみたーい!あははっ!」


 ファイスが言った通り警備はザルだったようで、これだけ騒がしくしても誰も出てこない。

 時折鳴り響く花火の音もカムフラージュとなり、シルス救出の味方になったようだ。


「なんていうか……無邪気だよねえ、ファイスもシルスちゃんも。ファル……なんでムクれてんの?」

「……別にムクれてない」


 振り向いたシュレスが目にしたのは、右の頬だけを少し膨らませ不機嫌そうな上目遣いのファルナルーク。

 明らかにムクれているし、スネている。


「もともとこんな顔なんですぅー」


 どう見ても、スネている。

 ファルナルークの視線の先には、シルスをおんぶして走るファイスの姿。

 二人とも、何事もなかったかのように笑顔である。


 ――シルスちゃん取られてヤキモチ妬いてんじゃん!どんだけ意地っ張りなのよ、もー……


 思ってはみるものの、口にはしない。

 ふと、シュレスが思い出す。


「子供の頃さー、かーさんが作った紅茶のクッキーよく食べたじゃん?」

「え?ああ……うん。美味しかったよね」


「いつだったか最後の一枚になって、ジャンケンしてファルが負けちゃってー、アタシがそれ食べたんだよね」

「……そんなコトあったっけ?」


「その時と同じ顔してるよ」

「えっ!?」


「すねムクれファルになってる!あっははー!」

「すねっ……!」


 子供の頃の小さな悪口で呼ばれ、ファルナルークが赤面する。


「紅茶のクッキー、また一緒に食べようよ!ね!」

「……最後の一枚は私がもらうからねっ」


 シュレスとファルナルークも二人の後を追い、走り出した。


 幼なじみで、親友で。

 何気ない会話でさえも心が軽くなっていく。

 気付けば、ファルナルークの『すねムクれ』は消えていた。

         

 塀を乗り越え、シルス救出大作戦はどうにか成功。

 

「あのっ!皆さんっ!今から言う場所に連れてって下さい!わたしを守って下さい!わたしっ、どうしてもそこに行かなきゃいけないんですっ!」


 シルスが真剣な顔で皆に向き直る。『時渡(ときわたり)』の瞬間までには時間はあるが、いつまた危険な目に合うかわからない。


『何事も早め早めの行動!』


 旅立つ前に図書館で言われたシェラーラの言葉が痛いほど身に沁みるシルスであった。


「どこに向かえばいいんだ?」

「東門を出て少し行った丘の上です!」


「おう!まかせろ!いくぜヤロウども!」

「ヤロウはファイスだけでしょ!」


 ファイスの号令の元、目指すのは。

 

 ケヤキの切り株親分がある丘、シルスの旅立ちの場所である。


          ◇


 花火の音が、時折間を空けて聞こえてくる。

 ルディフはその音を一人聞いていた。

 ファルナルークに打たれた頬に手を当ててみる。


「マジになるなよなー……ヤラせるどころかキスすらできねーなんてなー……ん?」


 『察知』スキルを発導していないにも関わらずピリピリと苛立った感情を捉える。その者は相当な怒りを抱えているようだ。

 この街に来て最初に訪れた、多くの店が並ぶ7番区の大通り。

 人混みの中から、東門に向かって歩く怒りの感情の持ち主-フェルヴェルの姿が見えた。


 ファイス達と別れ、夜を明かしてから街を出ようとしていたルディフが目にしたのは、睨み付けられただけで卒倒してしまいそうなほどの憤怒の形相で歩き回るフェルヴェルの姿だった。

 はだけたユカタを気にも止めず辺りをキョロキョロと見回している。


「殺気がダダ漏れだな……あのダークエルフ……黒姫サンと一緒にいたヤツか。シルったん連れてった筈だよな……」 


 ――誰か探してる……?イヤ……見つけたのに見失ったか逃げられたってとこか?……シルったんか……


「ダークエルフのお嬢さん、探し物かい?」

「アアん!?ナンっだ、クソニンゲン!」


「クチわるっ。ご機嫌ナナメだねー」

「コロスぞ、クソニンゲン!ウセロ!!」


「ハーフエルフの女のコ探してるんじゃないのか?」

「……知ってるノか!?オシエロ!オシエナイとコロス!!」


 細い腕でルディフの胸ぐらに掴みかかろうとするフェルヴェルだが、身長差がありすぎて届かない。


「おっかないなあ、もう」


「キンパツデカオンナ!アイツ、ぶちコロス!」


「へー」


 ――この状況から考えて……ファルっちだろうな……


「知ってるぜ、そいつ」

「アアン!?だったらオシエロ!」


「落ち着きなってー。カワイイ顔には笑顔が一番だよー?あのさ、もう一人いなかったかな?ハーフエルフの女の子」


「アイツはニエだ。ニエは殺さナイ」


 そう言うとフェルヴェルは口の端をにいっと吊り上げた。


 ――……この子、何歳(いくつ)なんだ?邪悪な笑みだな……ニエって……生け贄のコトか……?


「ニオイがウスれたから見失っちまっタ……クソっ!」


 ――そう言えば……匂いに敏感だったよな……ファルっちの呪いの匂いがどうとか……


「一緒に来てくれたら教えてあげるよー?」

「アアン!?」


「キツネの皮を被ったキツネ、って呼ばれてた俺だよ?信用していいよー?」


「イミわかんネーワ、クソニンゲン!さっさとオシえろ!」


「まあまあ、落ち着いて。口で説明出来ない場所だから一緒に来てよ、あ、りんご飴食べる?カワイイ娘にはりんご飴がよく似合う!」


「喰うカラ、ヨコセ!」


「ここのりんご飴っておいしーんだよー?食べた事無いけど」


「シルカ、ボケ!」


 ――なんつう口の悪さだよ……


「浴衣、着崩れちゃってるねー。直そうか?」

「クソが!サワンな!」


 ――マジかー……声かけなきゃ良かったかも……


 女の子にここまでボロカスに言われるのは、ルディフにとって人生初である。それでも笑顔は絶やさない。


『女の子にお近づきになるには、まず、笑顔』

 ルディフのこれまでの経験から学んだ哲学の一つである。


 フェルヴェルにりんご飴を買い与え、7番区の大通りを練り歩く。

 フェルヴェルが向かっていた東門とは逆の方向へと。



 次話『アールズの大花火』


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