コーチスタッフ
トレードも一段落した後、ブルーアースから来季のチームスタッフが発表された。チームスタッフは、ヘッドコーチ赤沢(55才)、投手コーチ芝原(35才)、内野守備コーチ桜木(34才)、外野守備コーチ大岩(33才)、走塁コーチ梅島(33才)、内外野守備コーチ国吉田(31才)、捕手コーチ泉(32才)、トレーニングコーチ日向(40才)、ITコーチ沓谷(26才)が発表された。この発表についても球界、マスコミは驚かされたが、この頃になるとブルーアースの話題づくりとしか見ていなかった。それもそのはずである。ヘッドコーチの赤沢以外全員コーチ経験がなく、野球技術担当者コーチは、全員今季引退した選手ばかりであり、さらに現役時代は、さほどの成績も残していなかった。したがってマスコミが一斉に「お遊戯集団、ブルーアース」と比喩されても仕方がなかった。
この人選は新田によるものではなく矢田によるものであった。そして矢田は、この人選にある目論みが隠されていた。野球界に限らず、日本のスポーツ界におけるコーチは、競技経験者がなるものと何も疑念を待たず就任しているが、矢田はコーチに必要なのは自身の経験から指導するのではなく、本当の意味でのコーチングが必要であると常々考えていた。したがって矢田は、あえて現役の成績が芳しくなく現役時代から「考える」ことを習慣にしていた人間を人選した。
新田が矢田から、スタッフ人事についての人選リストを目にしたとき、驚きと喜びを感じた。また、普通ならばいくら引退後コーチ就任が約束されていても、まだ30才前後ならば現役選手としての未練がありトレード志願など交渉が難航するのが普通だが、芝原を含めた全員が引退を了承した。全員が現役引退を惜しむのではなく、「コーチングを学びたい」意欲で道溢れていた。この時新田は、静岡ブルーアースは、とんでもないチームになるかもしれないと恐ろしささえ感じた。