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夕暮れの陽(ひかり)【異端と異形と異常が織り成す恋愛譚】  作者: 譚月遊生季
Juin

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第11話 lien

「じろ(にい)


そう呼ぶのが口癖だった。

姉の家庭教師だった青年は美和の憧れであり、初恋の人だった。

冷静で、落ち着き払っていて、めったなことでは動揺しない。「年上の美男子に興味があるのかい?」……なんて、姉に笑いながら聞かれたこともあった。


……美和の知る次郎は、冷静で、落ち着き払っていて……


それでも、ふとした瞬間に少年のように瞳を輝かせる、奇妙な魅力を持った青年だった。

……美和は、その光に魅せられたのだ。




***




学校は再び現れた殺人鬼の噂で持ちきりだった。

シャルロットは、姿を現した途端静かになるクラスメイトに対し、居心地悪そうに「ごめんなさい」と呟いた。……こういう時ほど、「恐怖」は強めに作用してしまう。


「謝ることないよ」


……が、奈緒は助け舟を出した。


「何?みんなして、シャルちゃんがお化けみたいな反応しちゃって」


彼女には能力(ブーケ)が効いていないのか、それとも……

根本的に、「恐怖」の感覚が違うのか。


「奈緒、落ち着いて。みんなきっと慣れないだけよ。……その分、私たちが必要以上に可愛がればいいの」


ね、シャルちゃん?と肩に手を置きながら、美和も告げる。

必要以上……?と疑問には思ったものの、シャルロットも純粋に嬉しかった。

本当の意味での「友達」が、ようやくできたようにも思う。


すごすごと距離を置くクラスメイトたちを尻目に、美和はふと、廊下の向こう側に目をやった。……次郎の白衣は、遠目からもよく目立つ。

どこか曇った表情が気になりはしたが、シャルロットの心配そうな呼び掛けで意識はそちらに向く。……美和も、新しい友人ともっと親睦を深めたかった。




***




「明日、僕も一緒に学校行っていい?」


昨夜のロベールの言葉を反芻しながら、次郎は廊下を進んでいた。……兄から連絡はない。怪我をしていないかどうか気にはなるが、ロベールとの会話にはかなりインパクトがあった。


続いて、記憶を手繰る。


「うーん、転入や入学にはそれなりの手続きがいるぞ」

「僕、一応もう入学してるよ」

「えっ?」

「4月から一度も行ってないけど。陽岬学園の中等部。……っていうか、君のクラスだよ。昨日は名乗ってなくても名前覚えてたのに……」


確かに、思い返せば受け持ちのクラスに空いている席はあった。次郎も担任として気には止めていたが、何となく本能が「触るな」と告げていた。

ロベール・エカルラート……名前もきっちり知っていたのに、会っても気付かないほどには蓋が強固に閉まっていたことになる。

なぜだ……と思案する次郎の様子を、ロベールは冷めた視線で見つめてくる。


「……手続きしたのはヴィクトルさんだし、たぶん「隠匿」にでも当てられたんじゃ?あの人、そこらへん器用だから」


嗅覚の強い大神が、香り(ブーケ)と名づけられた能力に左右されやすいのは、至極当然のこととも言える。もっとも目の前の相手の「挑発」は、次郎にはそこまで効いていない。

その差は、次郎のマイペースな性格に由来するのだろうが……


「さすがに担任としてどうなの、それ」


ぶすっとむくれつつ言われたが、次郎もそう思った。

少なくとも、数時間経っても廊下で歩きながら気にするほどには、教員失格だったと思っている。


「あだっ」


……おかげで、壁に正面から激突する羽目になった。




***




「……これ、姉が出した本よ」

「えっ、すっごーい!作家さん!?頭良さそう!」

「フランスに1人で住んでるんだもの。良くないわけがないわ」


嬉しそうに「姉」のことを語る美和に、シャルロットもつられて破顔した。連鎖するように、あまり会ったことのない弟のことを思い出す。……そう言えば、父であるセザールに色々と聞いても、彼のことははぐらかされるばかりだった。


……ふと、思考が過去に向いた。


セザールがニュースで見た殺人鬼だとするなら、合点が行くことは確かに多い。……けれど、認めたくはなかった。

あれ以上壊れてしまったのだと、信じたくはなかった。


人から生まれた人ならざるものとして、エカルラート家は故郷で激しい迫害を受けたという。……やがて、同じような肉体と特徴を持つ一族……ルージュ家やブラン家と結託し、新天地を探した。


エカルラートやルージュというのも、本来の血筋……ヨーロッパの家系から放逐されたために名乗った姓だ。ルージュ家は歴史も長く、「ヴァンパイア」という一種の血統として誇りすらも持っていた。当時の家長、アルベールに師事したセザールも、似たように誇りを持つようになった……と、シャルロットも幾度か聞いたことがある。


彼らが夢に見た「新天地」こそ、この陽岬の地なのだ。……あのような末路はおそらく、旅に出た顔ぶれのうち誰もが厭うたに違いない。




「シャルちゃん?」


声をかけられ、シャルロットはハッと顔を上げる。


「……つらいこと、思い出しちゃった?」


申し訳ないことを……そう思う前に、軽く背伸びした美和に抱き締められていた。


「え……っ?」

「ごめんなさい、つい可愛くて……」

「か、かわ……っ!?」


本当は青ざめていたからだと、……どこか、共感できる気がしたからだとは口にせず、美和は冷たい肌を温めるかのようにシャルロットを抱き締め続ける。


「美和ー、シャルちゃん目回してるよ~」


混乱と嬉しさと恥ずかしさでショートしたことを奈緒に指摘されるまで、シャルロットは晃一があえて無視をして朝礼を行っていたことにも気付かなかった。


「花野、久住、仲が良いのはいいことだけど、そういうのは休み時間に思う存分やりなさい」


出席簿に目を落としたまま、晃一はさり気なく声をかけてくる。……美和はすました顔で、シャルロットは真っ赤な表情を隠せないまま、ストンと席に着いた。

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