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何度も考えていた。ここから逃げ出すことを。
その度に諦めた。ここが居心地のいいことに、気が付いてしまうから。
大切にされていることはわかっている。それでも、ここを出て行きたかった。
あの人にもう一度。願うのは、それだけだった。そのためには、居心地のいいこの場所さえ、棄ててしまってもいいと思っていた。ただあの人といられるなら、私はそれでよかった。それ以外には、何もいらなかった。
居心地がよくても、大切にされていても、ここは私の場所じゃない。あの人がいないなら、全てがどこか乾いていて色もない世界にしか映らない。全てが、虚しいだけだ。それでも私は、ここにいるしかないのだろう。
あの人は二度と、ここには来ない。わかっている。それが、“来ない”ではなく“来ることができない”だということも、いい加減に納得しなきゃならない。それでも、期待してしまう。そして決まって落胆する。その繰り返しに、疲れ果てる。
だからいっそ、あの日に戻って、私とあの人を共に消してほしかった。