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伝授

 向かい合うナナシと早姫。

 灰色の世界は、太陽の光すらも打ち消していた。


「何じゃ?」


「お前に見せてやろう。ワタシの剣技を」


 刀を抜いて構えているナナシに対し、刀を鞘に納め、腰を低くしている早姫。

 抜刀だと判断したナナシは、一気に早姫へ攻めていく。地面に対し水平に構えた刀を振りつけた。早姫の鼻先を掠めたのか、早姫の鼻先に切り傷が出来た。


「すまぬ!?」


「何を謝ってる。刀を抜いた瞬間、命の駆け引きが始まっているんだ。相手に情けは無用だ」


 ナナシが動揺した瞬間を逃す早姫ではなく、身体全体でナナシへと詰め寄ると、右手でナナシの視界を一瞬遮る。ナナシが視界を取り戻した時には、ナナシの背後に回っていた早姫の指が触れていた。


「わああ!?」


「これが戦地ならば、既にお前は死んでいる。稽古で良かったね」


(せ、拙者の背後を取るとは!)


「まだまだ修業が必要のようだね。ワタシが稽古を付けてやろう。これも何かの縁だ」


「早姫殿が! それは嬉しいでござる!」


 はしゃぐナナシだったが、その興奮は直ぐに消えていく。影を纏った物体が、行く手を阻んできたからだ。


「知らん顔だが。あんまり気分がいいものではないね」


「オーマの仕業でござろう。早姫殿、下がってて……」


「オーマ?」


「この灰色の黒幕でござるよ。ああやって手下を送り込んで拙者を亡き者にしようとしているでござる」


「そういうことなら話が早いよ! ワタシも一肌脱ごう。いくぞ、ナナシ」


「助かるでござる」


 影を纏った物体を斬りつける二人。それでも決め手にはならない。致命傷を与える隙を作る為、突っ込んでいく早姫だったが、影を掛けられ視界を奪われてしまう。


「早姫殿!」


「案ずるな。目を防がれても、ワタシには〝心眼〟がある!」


 目を閉じた早姫は、刀を鞘に納めて低くしゃがんだ。息を深く吸って吐く。敵の気配を察知した早姫は空高く飛び上がる。空中で身体を捻った状態から落下していくと、そのまま勢いよく抜刀して斬りつけた。


「秘刀・早姫乱れ流……気消閃!」


(す、凄いでござる! あれが〈秘刀・早姫乱れ流〉)


「ふぅ。視界が晴れた。どうやら終わったようだね」


「それは違うでござるよ。空間に亀裂が入ってきたでござる」


 上空に黒い穴が現れる。そこから聞こえてきた声に溜め息を吐くナナシ。

 早姫は戸惑ってはいたものの、案外冷静でいた。


「また我の邪魔をする気か!」


「オーマ。お主こそ、拙者の邪魔をしているではないか。世界の邪魔をしているではないか」


「何度も言わせるな! 破壊なくして創造はない!」


「お主の価値観で決めつけるのはやめるのじゃ!」


「……言っていろ……」


 消えていく黒い穴。入れ替わるように現れたのは虹色の石。灰色の世界とは不似合いな石だ。


「あれは何だ? ナナシ」


「あの石を壊せば、この灰色の空間が元に戻るでござるよ」


「そういうことか。これで元に戻る、か」


「早姫殿?」


「あれを壊したら行ってしまうのだろう? ナナシ。なんとなく分かるんだ」


「すまんでござる。オーマの企みを阻止しなければいけないから。ゆっくりしたいでござるが」


「急ぐ時には急ぐべきだ。その代わり、休む時にはウンと休むのを忘れては駄目だよ」


「助言をありがとうでござる」


 刀を踊らせるように振り、虹色の石を斬るナナシ。彼がトドメに選んだのは、先程早姫が使っていた技だった。


(気消閃を!? こいつは驚きだ……面白い男だよ。本当に似ている、夏郷に)


 斬られた石から溢れた光が、灰色の世界を彩っていく。この世界もまた、破壊を免れたのだった。


※ ※ ※


「お世話になったでござる」


「ワタシは礼としてご馳走したまでだよ。今回は助かった。本当にありがとう」


「勝手に技を拝借してすまなかった。それでは」


「お前に正式に伝授しよう。これで問題はあるまい。ナナシ、健闘を祈っている!」


 早姫に送り出され旅立つナナシ。

 師匠を得た彼の心は、温かな気分に包まれていた。

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