最後の世界
数日前、彼は世界を救う旅に出た。灰色の世界に色を取り戻し、世界の破壊を防いできた。様々な世界での出会い。色々な経験。彼を成長させたこの旅は、終わりの時を迎える。
「戻ってきたでござる。この世界から始まったでござる」
「破壊されてないみたいだって」
「旅立ちの時点では記憶を失っていた。拙者の世界を魔悪邪が破壊した直後、この世界に来てお世話になった。ここでウル殿と出会った。破壊のショックで記憶を失ったが、ウル殿との別れの後、何らかの原因で再度記憶を失ったでござるな。もう記憶を失いたくはないでござる。今度こそ、魔悪邪を止めるでござるよ!」
「このままじゃさせないって!」
「石の気配を感じない。これまでとは勝手が違うようじゃ」
「呑気に探し物をしている暇は無さそうって」
二人の前に現れた魔悪邪。四枚の翼を羽ばたかせ、影を纏った身体を宙に浮かせている。
「やはり来たか」
「当然でござるよ! これ以上、お主の好き勝手にはさせない!」
「結局、お前と我とは分かり合えなかった訳か。双子なのにな……所詮は他人、か」
「そういうことになるでござるな。お主に考えを改めさせることが出来なかったのは残念でござる。拙者の力不足であろう」
「簡単に変わるものなら苦労はしないさ! 話し合いで済むのなら、人が争うことなどなかっただろう! そんな纏まりのない奴等は、世界ごと消えてなくなるべきなんだ!」
魔悪邪の周囲に現れる影の剣。同時に出現した穴へと飛んでいく。魔悪邪の顔は酷く歪み、凶悪な笑みを浮かべている。
「何をしたのじゃ!?」
「お前が救ってきた世界を破壊するんだよ! あの剣は核だ。世界を一つ破壊するだけの威力を持っている。一本で一つの世界が無となるんだ! お前の努力は無駄だったんだ!」
「……どうして今になって……追い込まれてしたとは思えないでござる。やろうと思えば、最初から出来た筈!」
「切札は最後までとっておくもんだろ? こんなに手こずる予定じゃなかったしな」
「魔悪邪。お主は世界を破壊したら、それからどうするつもりじゃ?」
「新しい世界を創る。理想の世界を」
「やはり拙者達は双子でござるよ、魔悪邪。考えを曲げない似た者同士でござる」
「くだらん。摩士、お前に世界を救う方法を教えてやろう。影の剣の創造主……我を殺すことだ!」
魔悪邪の身体が虹色に変わる。これまで幾度となく壊してきた石のような鮮やかさだ。
「この世界の色を取り戻すには、お主の息の根を止めるしかないようでござる。もう覚悟は決めてきた。拙者の兄としてではなく、破壊者オーマとして……お主を処す!」
「来い……摩士!」
急降下する魔悪邪の剣とナナシの刀がぶつかり合う。
世界の存続を賭けた戦いの火蓋が落とされた。
 




