兄を追い掛けて
ソファーに腰掛け寛ぐウル。まるで自分の部屋のように堂々としている。ジュースを飲みながら雑誌を捲る。ウルの横に座るナナシは緊張しているようだ。
「ファッション誌とか読んでも分からん。俺にはチンプンカンプンだって」
「拙者の靴を選べたのは?」
「あの時は直感でピンッて。けど勝手が違うんだ、男と女じゃ」
「女の子にプレゼントでござるか?」
「たまにはと思って。ん~……難しいって」
腕を組んで考えるウルを向かい側から見ている男性がクスッと笑う。軍服を纏った男性は、窓に向かうと煙草に火を着けた。
「君の第六感でもお手上げかね?」
「大尉には分かるのかって」
「分かれば苦労はせん。人それぞれ、好みがあるからね」
「役立たずって! なんで少尉は留守なんだって!」
「我々は軍人だ。日々忙しくしている。君達みたいな子供が出入りしていることの方がおかしいんだが」
「呑気に一服してんじゃんか。とても忙しいとは思えないって」
「これからの為の一服だ。これで気合いが入る」
「しっかりしてくれって。ちゃんとしないと、そのうち少尉が逃げちまうかもだ」
「何の話だね?」
「とぼけても無駄だって。ま、俺は何にも出来ないけど」
ジュースを飲み干して立ち上がり、グイーっと背筋を伸ばす。気合いを入れるときにする、ウルのルーティンである。
「行くのかね?」
「本当は黙って行くつもりだったけど、一応師匠だし。にょんちゃんのついでだって」
「そうか。理由は何であれ、私に知らせに来たことは褒めよう。何度も言うが、弟子が師匠より先に逝くのは許さんぞ」
「誰が死んでやるかって。俺を大切に想ってくれる人が待ってる限り、しつこくしぶとく生きてやるって!」
自信満々に宣言して部屋を出るウル。そのあとを追い掛けるナナシ。ライドに一礼して去っていく。
「頑張れよ、ウル」
灰皿に煙草を擦り付けながら、ライドは小さく呟いた。大尉として師匠として、大人としての願いを込めながら。
※ ※ ※
「準備はいいでござるか?」
「おう! 世界を破壊なんてさせないって!」
ウルを連れて飛び立つ。魔悪邪が待つ世界へ。ナナシは覚悟を決めていた。どんな悲劇になろうとも、絶対に世界を救うと。




