二人の出会い
今日も街は賑わいを見せている。金物屋が、あちらこちらに並んでいる。自分で打ったのだろう。自慢の鍋を叩いてアピールしている店主。実演販売の店では包丁が音を立てている。スパッと食材を切っていくさまは素晴らしい。
「リリッシュに来れば間違いない。確かこの辺の筈って」
「我が儘に付き合わせてすまないでござる」
「靴は大事だって。それにしても、なんだか懐かしく感じるって。ナナシと初めて会ったときを思い出す」
「あの時でござるか。拙者もお世話になってた身じゃったが、ウル殿を見つけたら、そんなことを忘れてしまっていたでござるよ」
目的の靴屋に到着し、ナナシに見合う靴を選んでもらっている間、出会った時の思い出話に花を咲かせていく……。
※ ※ ※
色々とズタボロなウル。起き上がる力も湧かず、地べたに伏したままだ。
そんなウルを心配そうに見る人々。一人が水を持ってくれば、一人は食料を差し出す。そういう流れが自然に出来る街。
「大丈夫なのじゃ?」
「う、うー」
身体に走る痛みを堪えながら水を飲み、パンを食べ、消耗した体力を回復していく。
「何があったのじゃ?」
「……戦いが……あってって」
「戦いじゃと!?」
「えへへ。俺の国を守るために……多分大丈夫……」
「服もボロボロじゃ。服も替えなくちゃ!」
大慌てをするナナシを見て、周りの人々が笑い始める。『あんたも他人の事言えない』と言われ、ナナシも笑ってしまう。そんな周りの笑いに釣られ、ウルも痛みを忘れて笑ってしまった。
※ ※ ※
靴を履いたナナシに浮かぶ笑み。初めて履いた筈なのに、不思議とその靴は馴染んでいた。身体の一部みたいに、自然にフィットする感覚に感動していた。
「どうだって?」
「拙者を知っているかのような感覚。凄く不思議なんじゃ!」
「俺の親友もここで買ったんだ。俺の太鼓判だって!」
「なら安心でござるな」
※ ※ ※
ナナシが確信を持てるのには訳があった。彼がウルと会ったその日、自分を善意で泊めてくれていた女性がウルを泊めると言った。ウルのサイズの服を買うのを女性から任されたのだが、ナナシは服に関して薄識であった為、致し方なくウルを同行させることに。
「痛むであろうに済まぬでござる。本人にしか分からないものがあると思ったのじゃ」
「買って貰う側が選ばせてもらえるだけ有難い。恩に着るって」
二人がやって来た服屋。上手に陳列された服は、パズルのピースのように揃えられていた。それを崩すのを躊躇ってしまう程だ。
「申し訳ないでこざるな。こんなに綺麗に列べられてると」
「だからこそだって。綺麗な程、崩しがいがあるって」
バババッと直感で選んでいくウル。ぼんやり眺めていたナナシに合図を送って会計を促す。紙袋を受け取ったウルは、そこから靴を取り出してナナシに渡した。
「ウル殿、これは?」
「靴が傷んでるって。折角だからな」
渡された靴を履いて伝わる感覚。自分のために作られたようにピッタリなことに驚く。
「凄いでござるな!」
「まあな。俺の第六感は冴えてるんだって」
ナナシがウルを信じる訳。この日の出来事が始まりであった。