燃やす闘志
ウルと魔悪邪が戻ってくると、色はすっかり戻っていた。人々が普通に街を歩いていることにウルは安堵する。
「摩士!」
「魔悪邪。いい加減諦めたらどうじゃ」
「ふざけるな。諦めるわけがあるか! ここは退いてやろう。が、お情けも次で終わりだ」
「残念でござるよ」
影となって消えていく魔悪邪。その姿を悲しそうに見つめるナナシ。その目は寂しさを宿らせていた。
「大丈夫かって?」
「拙者は大丈夫でござる。ウル殿、助かったでござるよ」
「困ったときはお互い様だって。今度は俺が助ける番だって」
※ ※ ※
とりあえず落ち着くべく場所を変えた二人。ウルの案内でナナシが連れてこられたのは、全身を赤い軍服で纏った仮面の者の部屋。突然、目の前に現れた二人を見ても動じず、呑気に花に水をあげていた。
「いらっしゃいにょん」
「いきなりごめんって。にょんちゃんには知らせた方がいいと思って」
「にょーん?」
二人から事情を聞いた仮面の軍人は、わざとらしく考える素振りを見せるものの、その雰囲気からは余裕を感じれた。
「それはそれは。なんだか穏やかじゃないにょんね。にょんちゃん、ちょっと怖いにょん」
「そうとは見えんでござるが?」
「ナナシくんは買い被り過ぎにょん。にょんちゃん、そんなに凄くないにょんよ」
「充分に凄いでござるよ。拙者とウル殿の、にわかには信じられない話を聞いただけで信じるだなんて。普通は鼻で笑って済まされてしまうんじゃ」
「ウルくんにはお世話になってるにょん。ウルくんとは友達だから、疑うことはしないにょん。それに、にょんちゃんにウルくんが嘘をつく理由もないにょん」
「ウル殿とにょんちゃん殿は信頼しあってるのでござるな。ウル殿の強さ、少し分かった気がするでござる」
「まあなって。元帥と友達っていうのは大きな強みだって」
「嬉しいにょんな~! それでウルくん。にょんちゃんはどうすればいいにょん?」
「もしかしたらまた、その魔悪邪が来るかもしれないって。そうなった時、セラテシムンを守ってほしいんだって」
「それは当然だにょん。この国を、国民を守るのが元帥の役目にょん。それでウルくん達は?」
「俺、ナナシと一緒に魔悪邪を追うって! 止めても無駄だって!」
「止めたりなんかしないにょん。でも、ティタちゃん達はどうするにょん?」
「俺抜きでも大丈夫って。ティタは文句を言うかもだけど、話したら付いてくるって利かないだろうからって」
「黙って行っちゃうにょんかあ。うーん、なんだか忍びないにょんが、致し方ないにょんか」
「本当にいいでござるか?」
「言ったろ? 困ったときはお互い様だって! 断ったって付いていくって!」
「ありがとうでござる」
「いいにょんね、いいにょんね。友情は美しいにょん!」
紅茶を飲む為に仮面を外す。柔らかい笑みを浮かべながら紅茶を香る女性、セラテシムン元帥にょんちゃん。
「き、綺麗でござる」
「にょんちゃんが? それはそれは嬉しいにょん」
素顔のにょんちゃんを見たナナシの正直な感想。それにウルも同調する。紅茶と共に照れを飲み込むナナシ。
「そういやあよ。あの街の人達は元気って?」
「……そのことじゃが……魔悪邪が向かった世界、最後の世界は……拙者とウル殿が出会った世界だと思うでござる」
「なんだって!?」
「あの世界だけは破壊していない。拙者の、この旅の始まりの世界……魔悪邪は、絶対そこを突いてくるでござる!」