炎の独壇場
そこは殺風景な空間。建物はおろか、生き物の姿も存在しない。青い炎を纏うウルの表情は自信に溢れていた。炎の勢いが増し、ウルのスピードも加速する。
空間に浮くことしか出来ず四苦八苦な魔悪邪。鎧の姿を解いて影を出し、コントロール出来ることを確認した。
「呼吸も出来る。不思議な空間ではあるが、騒ぐ程の場所とは思えん」
「へぇん! だったら動いてみせな!」
迫り来る影を上手く撒いていくウル。炎を撃ちながら魔悪邪の動きを制すると、一気に距離を詰めて殴っていく。その戦法でリズミカルに戦っていくウルの姿は、昨日今日で身に付けたものではない。
「調子に乗るな!」
再び鎧を纏い迫る魔悪邪。先程と同じく影の粒子を流していく。ウル目掛けて流れる粒子だったが、そんなものなど無かったかのようにやり過ごされてしまう。
「そう何度も喰らわないって。近付くならば燃やすだけだ。影に実体を持たせたのは誤算だって!」
「ふん! そいつはどうか? 実体があるのなら、それで痛みを与えることが出来る。それが何を意味するか……分かるか?」
ウルを四方八方囲む影の剣。それは一斉に降り注がれていく。穴を呼び出して逃げる隙などなく、魔悪邪は勝利を確信した。ウルを倒せば、この空間から出れると踏んでいた。しかし、幾ら待ってもその気配はない。他の世界へ渡る要領で脱出を試みるが上手くいかないでいた。
「何がどうなっている!? 奴は死んだぞ!」
「……いつ俺が死んだって? 冗談はキツいって」
突然現れたウル。傷を負った様子はなく、全く変わらない余裕の表情でいた。それでも変わった箇所がある。青い髪が、紫の髪へと変化していたのだ。
「コロコロと姿を変える子供だ。不愉快だ」
「十二才の子供を不愉快? ということは俺、少しは認められたってことって?」
「認めるものか! 我の邪魔をする者は、全て排除する!」
鎧を解除した魔悪邪は、影そのものを直接纏う。黒のペンキで塗ったように身体は染まり、背中には四枚の翼を生やす。黒い瞳を赤く染める。
「そっちも俺のこと言えないって。そっちは影、俺は炎。自分に適した姿になってるってこと」
「同じにするな! 不愉快だ!」
ノーモーションで放たれる黒い球体。その速さは目では追えない程であり、魔悪邪から撃たれた瞬間、ウルの所で爆発した。
「生意気なあまりの驕りだ。短い生涯だったな? 聞こえているわけがないか」
「……強さ故の驕りだって!」
完全に気を抜いていた魔悪邪に刺さる刀。防御力を捨てたのが運の尽きだった。身体を染める影には防御力はなく、スッと簡単に刺さったのだった。
「な……に!?」
「紫の状態の俺は、穴を使わずとも移動が出来るんだって。どんなとこでも一瞬でって」
ウルの手に握られていたのは、外にいるナナシの刀だ。それを持っていることが何よりの証明である。
「……そうか……ならば簡単な話だ。この空間を破壊する」
そこに現れた透明な石。灰色の世界に色を取り戻すべくナナシが斬っていた虹色の石の元である。空間が灰色へと変わっていくと比例して、石は虹色に染まっていく。
「助かりたければ出せ。このままでは死ぬぞ?」
「そうかって。セラテシムンをあんなにしたのは……。それが分かってよかったって」
ウルは魔悪邪の腕を掴むと、そのまま空間を脱出した。