付き添い
灰色ではない光景がそこにあった。このパターンは経験済みである。太陽の光を浴びて伸びをする。余計な緊張をしなくてもいいことに安堵した。
「お腹が空いたでござるな。どこかで落ち着こうか」
街の中にあった惣菜屋。そこの一番人気のコロッケを食べる。揚げたての、ホクホクのじゃがいもが堪らないコロッケを熱さと共に食べていると、ナナシよりも小さな男の子がやって来た。テキパキと注文をしていく。
「今日は早いね、懐ちゃん」
「うん。比良姉が忘れ物をしてしまったんじゃよ。歩きながら食べようかと思って」
「お姉ちゃん想いの弟だね! よーし、コロッケをオマケだよ!」
「ありがとう! ここのコロッケは美味しいんじゃ!」
ニコニコと嬉しそうにコロッケを受け取り食べ始める。言葉はなくとも、その美味しさは充分に伝わってきた。
「それじゃ行ってくるんじゃ」
「はーい。気を付けるんだよ」
(では拙者も行くでござる)
惣菜屋を去ろうとしたナナシに声が掛かる。声を掛けてきたのは惣菜屋のおばちゃんだった。さっきの少年が財布を置いていってしまったらしい。
「あの子を追い掛けてくれないかね」
「構わぬでござる。美味しかったでござるよ!」
財布を受け取り駆けていく。ナナシが追うのは金髪の少年。忘れ物を届けようとする者が、忘れ物をしてしまうという失態。少年を追い掛けるナナシが気配を感じ取る。覚えのある気配だ。
(オーマ……魔悪邪!)
自然と速度が上がっていく。あっという間に少年に追い付くと、財布を手渡す。
「ごめんなさい。急いでいたんじゃよ」
「気にしなくていいでござるよ。困った時はお互い様でござるよ」
「比良姉に届けないといけないんじゃ。無いと困ると思うんじゃ」
「これも何かの縁。拙者も協力するでござる」
二人は同じ場所を目指して走っていく。それぞれの目的は別であるが。




