緊張のデビュー
騒動を収めた後、会場の側にあるカフェに来ていた。ナナシの横に座るリリは、オレンジジュースを飲みながら笑顔を振り撒いている。リリに向かい合う形で座るセイララは驚いていた。
(ナナシ君にべったり。これは珍しいわね)
「どうしたの? セイララ。リリをジーッと見てる」
「えっ!? いやあ~、今日も可愛いなあ~って」
「そう? リリはいつも通りだよ」
「そうだよね、いつも可愛いわね!」
「そういう意味で言ったわけじゃない!?」
慌てて訂正するリリを見たナナシは笑ってしまう。微笑ましいやり取りに、心が温かくなっていく。
「理由は何であれ、上手い具合に緊張が解れてきたみたいだね。これでリハも大丈夫か」
「上手くいってほしいでござる。拙者、応援しているでござるよ」
「お姉ちゃん、ナナシ、ありがとう。これで頑張れる」
気合いを入れるかのようにジュースを飲み干すと、頬を叩いて身を引き締めた。
※ ※ ※
「「ら・ら・ら♪ いつまーでも歌うよ♪ 声が枯れるまで~」」
リハーサル中の二人の歌声が会場に響いている。ライトの当たり具合にマイクのボリューム、音響の最終チェックも欠かさない。スタッフと一丸となってステージに立つ姿は、プロ意識を持ったアイドルである。
「どうやら大丈夫そうね。マネージャーとしても姉としても安心だよ」
「リリ殿は幸せ者でござる。公私共に一緒にいられる姉がいて」
「出来るだけ一所にいてあげたいんだ。辛い思いをさせてしまっていたから」
「……その愛があれば充分でござるよ」
深くは追及する気はなかった為、ステージ上の二人を見つめるナナシ。ナナシの横に座りながら二人を見つめる姉の顔にも安堵が窺えた。
※ ※ ※
「さあ、これから始めるライブを楽しもう!」
「「うおおお!!」」
司会者の開会誓言と共に会場のボルテージが一気に上がる。
緊張の本番、リリララのライブデビューが始まった。
 




