ファン抗争
セイララに付いていくと辿り着いたのは大きな会場だった。大勢の人が出入りをしている。大きなものから小さなものまで、あちらこちらに置かれている。
「おはようございます! 今日のライブ、精一杯頑張ります」
「元気がいいね! セイララちゃん」
「はい! ユニットでは初めてのライブですから!」
「スタッフとしてもファンとしても、しっかり応援するから」
会場に居る人達に声を掛けていく。駆け足気味なのは、時間がないからである。ファンの前で見せる姿とは違う、もうひとつのセイララの姿。華やかなだけではないアイドルの世界。
「セイララ殿、大丈夫でござるか?」
「忙しいぐらいが丁度いいの。忙しくしたくたって、そう出来ない子がどれだけいるか分かる? 注目を浴びることで自由が減るけれど、注目を浴びたくたって出来ない子がいる現実を思えば、苦だなんて失礼だわ。あたしは、そういう重荷を背負っていかなきゃならないわけ。アイドルとしての責任よ」
「強いのでござるな、セイララ殿は。素敵でござるよ」
「き、きみは少し大袈裟にするのね。……罪な子」
ナナシの笑みを見たセイララの顔が赤くなる。そんなことを誤魔化すように小走りになる。会場を出て控室へ。廊下ですれ違うスタッフや他のアイドルにも挨拶をしながら、目的の部屋に辿り着いた。
「リリ、あたしだけど」
「セイララ!」
扉を開けて出てきたのは、銀色の髪を肩まで伸ばした少女だった。青色の衣装を身に纏った姿はキラキラしている。
「色々と挨拶回りをしていたら遅くなったわ。ごめん」
「ううん。大事なお仕事だから」
「リハまで時間があるから、どこかでお茶でもしようか。マネージャーは?」
「お姉ちゃんなら御手洗い。だけどちょっと遅いかも」
「行ってみようか。混んでるだけかもしれないわよ?」
トイレに向かう三人。トイレに近付いていくうちに、なんだか慌ただしい様子になっていることに気付く。
トイレの前で言い争いをしている男性が二人。それを必死に収めようと女性が一人。
「お姉ちゃん!?」
「何があったのかしら?」
人の群れを掻き分けて合流する。すると、セイララとリリの姿を見て、男性のひとりが喜びに満ち溢れる。もうひとりの男性は逆に、顔をしかめる反応をした。
「お姉ちゃん、どうしたの!」
「リリ!? セイララちゃん!? 大事なリハ前にどうして?」
「お茶でも飲みにいこうと思って。マネージャーの許可が要るでしょう?」
「それはそうね。でも参ったよ。この場を収めないといけないもの」
「何があったの? お姉ちゃん」
「リリとセイララのファンの方と、貴女達と同時期にデビューしたアイドルのファンの方が揉めていたの。最初は、お互いのアイドル愛を語っていたけど、段々と熱が増していって。次第に掴み合いになったのよ」
「そんなの悲しい……嫌です」
「リ、リリちゃんが悪いわけじゃないよ! リリララのことが好きな想いを語っていたらこうなったんだ」
「ファインの魅力を理解しないもんでな。リリララだなんてゴリ押し、認めるわけないだろう」
再び掴み合う男性達。宥めに入るものの、そう簡単に事態が収拾される気配はなかった。
「う~……」
目の前で繰り広げられる言い争いに堪えかねて、リリは思わず泣き出してしまう。アイドルの前に女の子である。ましてや原因が自分達のこととなると尚更苦しくなっていく。
「止めるでござる! 大人げないでござるよ!」
リリの左手を握りながら訴えるナナシ。ファンとて人間なのだから仕方のない部分はある。しかし、そんな心境を加味したとしても認めることは出来なかった。
ナナシに手を握られて安心するリリ。自然と涙は引っ込んでいた。
「好きな気持ちを押し付けても、好きな気持ちを愚弄することも駄目でござる。好きなアイドルを泣かせてはいけないでござるよ」
「「くっ……」」
言い争いをしていた男性達は静かになる。周りに出来ていた人だかりも散っていった。
 




