アイドルの護衛
幾度となく見てきた光景。何もかもが灰色の世界。
しかし、今の彼にとっては少し違って見えていた。刀を仕舞ったケースを肩に掛け、慣れた足取りで歩いていても、記憶を取り戻してから初めての世界。
「拙者の役割。拙者の使命。拙者の目的を果たすでござる」
行く手を阻む物体の群れ。黒い影を纏い向かってくるそれを、ケースから取り出した刀で斬っていく。これまで踊るような太刀筋だったが、〝斬る〟ことに特化した太刀筋に変化していた。容赦ない真っ直ぐな捌きに。
「さあ、片付けてしまおう」
虹色の石の元に着き、刀で迷いなく斬っていく。
虹色の光が放出し、灰色の世界を彩っていく。
「よし。拙者の役目は終わったでござるな」
刀を鞘に納め、ケースに仕舞い歩き出す。動き出した人の集団は、腹の底から、声を張り上げている。
「「セイララちゃああん! リリちゃああん! 皆のアイドル、天使なアイドル!」」
「ほう~、アイドルでござるか。歌い踊って元気を与える芸達者」
「ねえ、きみ。ちょっといい?」
突然話し掛けてきた少女。ピンクの髪をツインテに、ピンクの衣装を身に付けている。
「なんでござる?」
「その口振り、大したものね。あたしの気分も上場よ!」
「お主もアイドルでござるか?」
「そうよ? あたしは、セイララ。きみは?」
「お主がセイララ殿でござるか。皆が必死で名前を呼んでいるでござるよ。拙者、ナナシと申す。歳は十四でござるよ」
「十四ってことは、あたしの方がお姉さんね。十六だもの」
「お姉さんでござるか……拙者には兄がいるでござる」
「へえ。きみ、結構格好いいから、お兄さんも格好いいんじゃないかな?」
「分からぬでござるな。拙者だって格好いいわけじゃないでござるよ」
「謙遜しないの。自分に自信を持ちなさいな」
「自信、でござるか。そうでござるな」
「……よし決めた! ナナシ君、あたし達の護衛をしてくれない?」
「護衛を?」
「さっきの戦いも凄かったからね。どう?」
「戦いを見ていたでござるか!?」
(セイララ殿もでござるか。記憶を取り戻したこそ判ったこと。破壊の影響を受けない者の共通点)
「いいでござるよ。拙者で良ければ」
「そうと決まれば早速、あたしの妹分を迎えに行くわよ」
セイララとナナシは、目的地を目指して歩き出した。
 




