甲多VS斬牙
斬牙と合流するべく歩いていた三人の前に、静かに歩く斬牙が現れた。斬牙を見つけて近付く甲多。そんな甲多を嘲笑うように、斬牙の刃が牙を剥いてきた。
「斬牙さん!?」
「斬牙さん? そうか、こいつは斬牙って言うのか。まあ、名前なんてどうだっていいがよ」
「どういうこと? 斬牙さんをどうしたの」
「おやおや、やけに理解が早いじゃないかよ」
「話せば判るよ。友達だから。で、ワケは?」
「逃げるためだ。俺の能力を使ったんだよ」
「能力? 属性なら知ってるけど」
「そっちの常識なんか知らない。出来るものは出来るんだよ」
「斬牙さんに何をしたの」
「入れ替わったんだよ。今は女の身体の中だ」
「入れ替わった!? ……成る程ね。君は、あの女性と入れ替わっていたってことなんだ。身勝手だよ」
「身勝手? 戦略と言ってくれよ。この身体でまた斬れる。焼くことも!」
斬牙の赤いリストバンドが、二つの剣に変わる。赤い炎を纏った剣の放つ熱に、近付くだけでやられてしまいそうだ。
「それは斬牙さんの剣だよ! 君が使っていいものじゃない」
甲多もリストバンドを変化させる。斬ることも突くことも出来る小型の忍具。それをしっかりと握る甲多の目には怒りが宿っていた。
「クナイか。そんなもんで戦おうってか」
「抹殺師としては結構、戦える方だと思うけど」
「甲多。我の助けは要るか?」
「僕なら大丈夫。兄さんは、その身体をお願い」
「分かった。無理はするな」
「いいんだけど? 俺は別に。数が問題じゃないからよ」
「僕だけで充分だよ。そっちだって一人でしょ。フェアじゃないとね」
「フェア? こちとら自由に身体を乗り替えられるんだよ。分かってるのか?」
「そっちこそ分かってる? 君の身体はコッチにあるんだ。下手なことをすればどうなるか……分かるよね?」
「ソッチに居るのは女だ。最悪どうなっても構わない」
問答無用で攻めてくる少年の太刀筋は滅茶苦茶だった。それ故に、その動きが読み辛く、戦い慣れている甲多は苦労する。
その戦いの場から離れて見ていたナナシは楽観していた。少年の太刀筋の悪さから勝利を予感をし、甲多の動きから勝利を確信にした。
「どう思う。甲多は勝てそうか」
「お主の方が知っておろう?」
「甲多の実力に疑う余地はない。それでも不安要素はある」
「相手のことでござろう? 甲多殿は優しいでござる。気を遣い過ぎるかもしれぬ」
二人の不安が的中したのか、徐々に押されていく甲多。長剣と短剣の長所と短所を補う戦術に対応出来ずにいた。
斬牙の身体に馴染んできたのか、少年の動きが滑らかになっていく。滅茶苦茶だった太刀筋も、段々と正確になっていく。甲多が積極的に攻めなかったのも原因である。
「こんなもんなのかよ!」
(だ、駄目だ。相容れない身体と意識、どこかで自滅するだろうって踏んでたのに!)
「お前の身体をどうしようかと考えたが、おもいきって斬ることにした。友達に斬られるんだ、傷みも痛みも増すだろう!」
少年の斬撃をまともに食らった甲多は、ナナシと兄の場所まで吹き飛んでいった。二人に受け止められた甲多の身体には幾つもの傷が出来ていた。
「甲多殿!?」
「ごめん。僕が甘かったよ」
「無理もない。中身は違えど斬牙のだ。躊躇いも出来る」
「何だよ、もう終わりかよ? さあて、次はどっちだ!」
「斬牙殿と面識がない分、拙者の方が戦い易いでござる」
「だがこれは抹殺師の問題だ。同じ抹殺師である我がいこう」
「どっちでもいいよ。面倒だから同時でもいい」
「……へえ。随分な自信だな、おい。そんなんで斬牙の野郎を使いこなしてるつもりか? 甘い甘い。いいとこ、武器を手に入れてはしゃいでる子供ってとこだろ」
若干気だるそうに歩いてくる少年。紫の髪を後ろで束ね、黒いベストを着こなしている。ポケットに手を突っ込んで欠伸をひとつ。戦いの場に現れるには緊張感の欠片も持ち合わせてはいない。
「部外者は消えなよ。今なら見逃してやるから」
「その身体の脳ミソ、よーくかっぽじってみろ。それでも強気でいられたら、大したもんだ」
斬牙の記憶を読んでいく少年の顔色が、みるみる焦りを浮かべていく。紫髪の少年に関する記憶を見つけたのだろう。双剣を一本の剣にし、更に炎を燃え上がらせていく。
「ば、化物! さっさと斬ってやる!」
「ふーん。初対面の人間に化物呼ばわりされたのは初めてだ。これも人生、てか」
「……か、身体が……!?」
「諦めろ。俺の間合いに入った時点で、お前の負けは決まっていた。さあ、どうする? 俺に乗り替えるか?」
「馬鹿が。コイツを傷めつけれるのかよ?」
「決まってるだろ……」
リストバンドを弓矢に変化させると、躊躇なく斬牙の身体に射る。腹部に刺さった矢が赤く染まる。
「うっ!?」
「……当然だ」
「この……やろうっ!」
「桜庭雁斗だ。恨むなら恨め、青二才」
弓矢をリストバンドに戻すと、甲多達の元に歩いていく。『よくやったよ』と声を掛け、甲多の傷を癒していく雁斗だった。
 




