収まらない衝動
人目の付かない路地裏に追い込まれて震える女性。背中に伝わる壁の感触。声を上げても街の騒音でかき消される。持っていたバッグを盾にして耐えていたが、そのバッグは無惨にも斬られてしまう。出てくる中身に、応戦に使えるものはなかった。
茶色のリストバンドを液体で湿らせ、涙を流す女性の口と鼻を塞ぐ。気を失ったことを確認すると、リストバンドを刃物に変えて振り上げた。口元を緩ませて降り下ろそうとしたその時、その腕を掴まれ押し倒されてしまう。目に映る白い髪は、彼の気分を逆撫でるには充分であった。
白い髪の少年の背後に迫る刃物だったが、またもや寸前のところで阻まれた。少年にとっても彼にとっても、見上げる程の大柄な男性によって。白い髪の少年は、大柄の男性とアイコンタクトをとって離れていく。女性の腕を肩に回して。
※ ※ ※
知っている気配を強く感じとった甲多は、同行を希望したナナシと共に街へと繰り出していた。休日ということもあり、とても賑やかである。少しでも人混みを避けようと裏路地に入っていくと、先程の大柄の男性と刃物の少年が居た。
大柄の男性が甲多とナナシに気付く。甲多に対し合図を送る。それを読み取った甲多は、静かに近付いていくのだった。
「やっぱりそうだった。兄さん!」
「こやつ、例の通り魔だ」
「ようやく見つけたよ。どうして通り魔なんてやったの!」
「……冷獣がいないからだ……斬れないからだ!」
生気の無い瞳は黒く、何者の姿も受け付けないものと見受けられた。刃物は茶色のリストバンドへと姿を変え、少年の瞼は静かに閉じる。気を失っているさまは、どこにでもいる子供であった。
「兄さん。彼、どうする?」
「既に事件となっている以上、引き渡すほかあるまい」
「そうか……。抹殺師のことだから抹殺師で解決したかったけど。うん、そうだよね」
「甲多殿。この辺り、血の臭いがするでござる」
「え!?」
「妙だ。我も斬牙のも、斬られてはいないが」
「斬牙さんも一緒なの?」
「ああ。こやつに狙われていた女性を避難させたが」
※ ※ ※
「な、なんだ……と!?」
「ふ。その白髪を染めてやるよ。真っ赤な血で」
「……その武器は抹殺器……そうか、その女性の身体を……乗っ取ったのか!」
「甘いんだよ、詰めが。その身体、頂き!」
(くっ……)
斬牙の意識が遠退いていく。
女性の身体は倒れ、斬牙の顔は不敵な笑みを浮かべた。




