荒ぶる風
ナナシは別の世界へ。辿り着いた世界の色は、灰色だった。
辺りを警戒していたナナシの元に、影の物体が襲い掛かってきた。刀を取り出して抜き、物体を斬っていく。それはもう、ナナシにとっては条件反射のことである。斬られた物体は消滅し、世界の色を内包している石を順調に見つけて破壊した。灰色の世界に色が戻っていく。
七菜から貰ったバットケースに刀を仕舞い担ぐ。腰に提げず歩くのは心許なかったものの、刀を携帯してはいけない街もあることを学んだナナシは我慢した。
「さて。この世界は救われたでござる」
次の世界に渡ろうとしたが、漂ってきた空気に足を止めた。仕舞った刀を出そうとするが、街行く人々のことを考え躊躇する。
(緋殿達の世界のように、この世界……この街も刀が駄目だった場合、拙者の自由が奪われる恐れがあるでござる)
建物の陰に身を隠して警戒する。すると、ドスの効いた声と共に姿を現したオーマ。以前よりも影は薄れており、黒い鎧を纏った身体がハッキリと目にとれた。
「我の邪魔ばかりする。その顔、いい加減見飽きたぞ」
「ムロ殿達と戦った頃よりも姿をハッキリと見えるでござるな。拙者は新鮮な気持ちでお主を見ているでござるよ」
「やけに落ち着いているようだな。自分の実力に自信があると見てとれる。我に何度も勝っているからか」
「分からぬよ。だが以前と比べれば余裕を持てているでござる」
「そうか。ならばその余裕を崩してやろう。我の力で」
身体を構えて突っ込む。真っ正面から堂々と。逃げも隠れもせず、己の身体のみで。
それでもナナシは避けなかった。いや、避けられなかった。まるで金縛りにあったかのように。指先すらも動けない。
「ぐっ!?」
「どうだ? 我の力は。フフフ」
「……何をしたのじゃ!」
「正々堂々と拳をぶつけたまでだ。我の力をもってすれば、貴様を捻り潰すのは容易い」
顔を殴られたナナシは、口に溜まった血を吐き出す。ケースから刀を取り出そうとするが、殴られた衝撃で視界が定まらないでいた。
「終いだ。呆気ない幕切れだ」
迫り来る拳に目を閉じる。ふらつく身体を押し、間一髪避けてみせた。が、拳は容赦なく続いていく。身体を吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。その衝撃で意識を失いかける。身体は激痛に悲鳴をあげていた。
(視界も身体も……ううっ! 拙者の身体が!?)
黒い道路に身体を預け、瞼を閉じていくナナシ。もう開けることはないだろうと察する。心地いい風が眠りを誘う。昼寝に最適な暖かい風。それと同時に癒える傷。不思議な感覚を覚えたナナシは、残る気力でオーマを見た。
「また邪魔か。今の我に一撃を食らわせるとは!?」
(な、何じゃ? ……)
そのままナナシの意識はプツリと途絶えた。
 




