現実へ
「やったぜ!」
「こんなにスカッとするでござるか!?」
「おう! これだから病み付きになっちまうんだ」
「緋殿から楽しんでいた雰囲気が流れているでござる」
「そうか? 漢には自覚ないがなぁ」
戦闘の余韻に浸っていると、金色のヒーロータイプが駆けてくる。腕を組みながらやって来ると、緋の姿を見るや溜め息を吐いた。
「まったく。困ったものね。緋君が居るところに七菜ちゃん在り。待っているのもシャクだと思って、七菜ちゃんの行きつけのゲームセンターに来てみたら案の定なんだもの」
「そういえば七菜。キイラと待ち合わせしていたんだろ? ナナシのことで」
「あはは。ちょっとだけと思っていたんだけどね。いざ始めたら止まらなくてさ。ナナシに教えてあげてもいたし」
「あー、はいはい。素直に言ったら? 『緋に会いたかったから』ってね」
「そ、それは違う!? 違うさ!?」
キイラの言葉に動揺してしまう七菜。どうやら図星だったようだ。
「んじゃとりあえず、ここいらで解散としますか!」
「そうだね。ナナシのこともあるしさ」
※ ※ ※
ログアウトした七菜とナナシとキイラは、緋と合流するべく、待ち合わせ場所に指定した喫茶店へと来ていた。
「いい香りでござるな。心が落ち着くでござる」
「珈琲も初めてかい?」
「記憶にない香りに苦味……おそらくは」
珈琲の香りに心を和ませていると、入口の鈴がカランと音を鳴らす。赤髪の青年が、テーブルに着いている三人に気付いて寄ってきた。
「待たせたか?」
「僕達も来たばかりさ。先に飲んではいるけどね」
「ならよかったぜ。で、ナナシのことは済んだのか?」
ごく当たり前に七菜の隣に座ると、紅茶を注文する緋。
そんな緋の姿をジロジロ見るナナシ。そんなナナシを不思議に思った緋は、なんとなく髪を弄る。
「なーに緋君、お洒落付いてるのかしら?」
「違うよ。ナナシが見てくるから、なんか変かと思ってな」
「違うでござるよ。その赤い髪、誰かに似ていると思ったんじゃ」
「へぇ」
「やはり似ているでござる、ムロ殿に」
「ムロ!?」
緋は驚いたと同時に苦笑した。自分とムロが似ていると言われてしっくりこなかったからだ。
「確かにムロさんと似ているかも。無鉄砲なところとかさ」
「似てるか? 漢、しっくりこないんだけど」
「僕が断言するさ」
「ちょっと~。どさくさ紛れに見つめ合わないの。ワタシは別に、二人のデートに同行している訳じゃないんだからね」
「「見つめ合ってなんかない!」」
顔を真っ赤にしながら抗議する緋と七菜だが、声を揃えての抗議だった為、あまり効果はなかった。
「はいはい、ごちそうさま。で、本題の方なんだけれど、ワタシが同行することが条件ではあるけれど許可が取れたわ。ワタシが警察に協力していて助かったわね。普通ならば、問答無用で即御用なのよ」
「これは拙者の相棒でござる。記憶を失ってはいるが、身体が覚えているみたいでござる」
「悪いな、キイラ。こんな処置、普通は通用しないのに。お前には色々と世話になっちまって」
「七菜ちゃんにお願いされたら断れないしね。でも、通用するのは今回だけよ? こんなことが罷り通ったら、ワタシの身が危ないもの」
「ありがとうでござる。恩に着るでござるよ!」
「よっしゃ! 自由にフラつけると決まれば、さっそくゲーム巡りだぜ!」
「またゲーム? それしかないわけ?」
「それは愚問さ、キイラ。緋からゲームを取ったら、何も残らないさ」
「フォローになってないぜ!?」
「本当に仲が良いでござるな。羨ましいでござるよ」
それから、しばらく街をフラついたナナシ。
記憶を失っている彼にとって、その街の見るものは新鮮に映っていた。




