経験の差
ナナシの刀を握り締め、赤髪の青年が静かにオーマへと歩いていく。オーマの影が迫るも臆することなく進んでいく。影が腕に絡まるも感触があると分かると、その影を刀で斬っていく。
「オイ。その鬱陶しい影を引っ込めろ」
「何だいきなり」
「オレの仲間を離せってんだ。オレの忠告を無視したらその瞬間、てめえの無事はないと思え」
「大きく出たな。この状況でよくもまあ」
「慣れてんだよ。てめえみたいな野郎共をウンザリと見てきてるんでな」
「ほう? そんな奴が、仲間を人質に捕った場合どうするか、分からないわけではないだろう?」
「それもそうだな。そう簡単に解放するわけ……」
言葉半ばに走り出すと、地面スレスレに刃先を走らせながら、下から上にオーマを斬りつけた。
オーマは驚く素振りを見せながらも赤髪の青年目掛けて拳を振るう。それにより吹き飛ばされる青年だったが、空中で体勢を整えながら影を斬っていく。
「……ないよな」
「我の影を斬った!?」
「オレに絡まった影と今斬った影は違ったな。仲間を捕らえていた影の方が固かった」
「調子に乗ると痛い目を見る!」
オーマの拳の連打が容赦なく浴びせられる。しかし、赤髪の青年は涼しい顔で避けていく。
「カズマ殿、大丈夫でござるか!」
「ああ。タイミングが良いというか悪いというか」
「彼は何者でござるか? 只者ではないと見受けられるが」
「あいつは、俺達ロードバスターズのリーダー。今まで別行動をしていたんだが」
カズマの表情に明るさが表れたことに気付いたナナシは、赤髪の青年を味方と認識した。
「芸がないな。殴るだけなんてよ。何の為の影なんだ? オレを捕らえてサンドバッグにしてみせろよ」
「生意気に!」
突き出された拳を踏み台にして高く飛び上がると、身体を回転させながら刀をオーマの頭上に斬り付けた。オーマの視界がボヤける。身体がふらつく。
「足元がお留守だ」
オーマの身体を蹴りあげ、自身も飛び上がって斬っていく。太刀筋は荒いが、確実にオーマにダメージを与えていた。地上に叩き付けられたオーマに刀が突き出される。
「な、何者だ! 我にこれだけの痛手を負わせるとは」
「ムロだ。まだやるなら相手になるが?」
「ムロ、か。覚えていろ!」
オーマは黒い穴へと変わって消えていく。
ムロは息を吐きながら、刀を持ち主のナナシに返す。
「間一髪だったな、皆」
「お前どうして!?」
「んだよ。オレが助けに来て不満か?」
「そうじゃない。助けに来たタイミングが良すぎるんだ。今までどこ行ってたのかも知らん」
「お前が取り逃がした物取りを追ってたんだ。ここに来る前に、第二監獄場に置いてきた。皆止まっちまってたから困ったけど、カインは動いていたから任せてきた」
「物取りを第二監獄場に!? カインに任せてきた!? 呆れて何にも言えないわよ」
「物取りも止まっちまってるから大丈夫だ。どうやら、イグラズは元に戻ったみたいだな」
「物取りも元に戻ってる筈よ! 早く連れ戻しに行かないと!」
「大丈夫だって。カインが一緒なんだから」
「「だからだ!」」
「あの……カインというのは何じゃ?」
「さっきナナシ君が居た檻の向かいに居た人さ」
「何じゃと!?」
セリオの説明に驚くナナシ。第二監獄場がどういう所なのかを知らなければ取れないリアクション。
ミカノとカズマに説教をされながらも笑っているムロ。説教をしつつも、どこか喜んでいるミカノとカズマ。
「ナナシ君。今日はゆっくりしていくといいさ。僕達からのお詫びもしたいしさ」
「分かったでござる。お世話になるでござるよ、セリオ殿」
(ムロ殿がオーマに対して使った技、あれは早姫殿から教わった技と似ていたでござるな)
ナナシとロードバスターズの活躍により、また一つ世界が救われた。クラッティスの鐘が、正午を知らせるべく鳴り響いた。
 




