紅海月の少女
世界観重視、ファンタジーテイストの淡い初恋読み切りです。
ちょっと事故のシーンの描写が生々しいですが、残酷な描写とまで…はいかないと思います。
教室は、海の中だ。
サメやウツボみたいな強い奴がいばって泳ぎ、弱い小魚が食べられる。
カラフルで個性的な、色んな魚が行ったり来たり。
僕は何だろう。
特に襲われないけど、自由に泳げる尾びれがない。
海底に生えているワカメとかかな。
ペラペラで、水流に逆らわない。
車いすを押して、たまに友達のところに行くぐらい。
退屈だなぁ。
退屈になると、ボーッとする。
ボーッとすると、視線が勝手に泳いで。
いつも同じ場所に止まる。
クラスの中を、体重がないみたいにふわふわ泳ぐ彼女。
視線の泳ぎつく先だ。
彼女は、ベニクラゲ。
「また、月島を見てるんだ?」
そう話しかける友達は、潮の流れ。
僕一人じゃ行けない場所へ、背中を押して連れていってくれる。
教室は海だっていう見方を教えてくれたのも彼だ。
「どうしてベニクラゲって呼ぶんだ?
ベニクラゲって不死身のクラゲだろ?」
彼はいつも不思議そうに問う。
ごめんね。
答えられない。
二人だけの秘密なんだ。
僕の尾びれがちゃんと動いた頃。
自転車に乗ってたら。
交差点を漂う、同じ海にいたクラゲに衝突した。
僕は上半身が何とか動かせたけど、クラゲは動かない。
海底に血が広がって。
なんてことをしてしまったんだ、と立ち尽くした瞬間。
「あー、びっくりした」
彼女はひょいと起き上がった。
裂けたカサが、一瞬でつながって。
血だまりは消えていた。
あとに残されたのは、動かない尾びれ。
彼女は僕をおぶうと、ふわふわと僕の家まで運んでくれた。
死なないの、内緒ねって笑いながら。
こんなこと、あっていいのだろうか。
不思議でついつい観察してしまう。
たまに喋ると、普通の女の子なのに。
学校指定のシャツの上に赤いカーディガン。
色からして、あの神秘の生命体にそっくりだ。
でも、それ以前に。
視線が惹かれる。
どうしてだろう。
そう友達に聞いたら、おめでとうと言われた。
「へえ、流輝が月島を!」
探究心じゃないことを隠しておくのは、もう無理だった。
自由の利かなくなったワカメの初恋は。
自由なベニクラゲ。
あの日の痛々しい紅色は、水に薄められて。
海が優しいピンク色に染まる。
感想やリクエスト等ありましたらよろしくお願いします。