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美少年推理

一瞬『彼女』と見間違うような目の前の美少年に私の目は奪われていた。男子の制服を着ていなければ本当に間違えたかもしれない。

白い肌の色に手足は女の子のように細い。大きな瞳やさらさらとした髪は、今までみた誰よりも綺麗に見えた。


「何をしていたのか説明してもらえないでしょうか。」


その言葉を聞いてようやく私は自身のおかれている状況を思い出した。

私は見られたのだ。来栖彩乃の机に煙草を入れるところを。そして彼は偶然居合わせたわけではない。


「べ、別になにもしていないわ。」


必死に心を落ち着かせる。


「それは煙草ですよね。どうしてあなたが持っていて、それを来栖彩乃の机の中にいれようとしているのですか?」


彼は流暢な敬語を話しているが、私たちのクラスで起きた事件の事を知っているようだった。


「こ、これは―、私はただ、その…。」


まるでドラマの犯人のような反応をしてしまってから気づいた。ここは直ぐに落ちていたのを拾ったのだと言い張るべきだった。疑いは晴れなくても、誤魔化せたかもしれない。

 でもそんなのは無理だ。

 今はもうまともに頭が回っていない。

 それが、自分の悪事が見つかってしまったことによる混乱のせいなのか、今私の目の前にいる生徒のせいなのか―。


きっと両方なのだろう。


「今日、このクラスで見つかった煙草はあなたの物で、あなたはその疑いを来栖彩乃に向くように故意に仕向けた。そうですね?」


「ち、ちがうわ。私は何も知らない。」


「では何故あなたが中身だけの煙草を持っているのですか。まるで落とした煙草の中から抜き出しものを彼女の机に入れようとしている風に見えるのですが。いいえ正確には落とす『前に』ですね。」

「わ、私は何もしていない。ただ拾った煙草を…。」


続く言葉を私はどこに置いていってしまったのだろうか。


彼の視線は私から言葉を奪ってしまった。彼と視線が合った瞬間に私は言葉を奪われてしまった。

 もちろんそんなわけない。

 ただ動揺しているだけ。

 こんなのなんとでも言い訳できるんだから。


「ちなみに言っておきますが、彼女のたばこでないことはすぐに分かりますよ。」

私の動揺なんてお構いなしに落ち着いた声が教室に響く。


「ど、どういうこと?」


「簡単なことです。簡単で単純。彼女には『その煙草を落とす事』が不可能なんですよ。」


「何言ってるの?そんなの誰だって―。」


「誰だってできますか?人の多い教室で落とし物をして、落としている瞬間を見られない事って案外難しいんですよ。近くで何かが落ちれば誰だって反応する。ましてや、常に生徒であふれかえっている午前最後の授業から昼休み終了までの間に『誰のものかは分からないが、煙草が落ちていた』なんてそれ自体がほとんど、『誰かが故意に落とした』事の証明になっていますし、昼休みの間中、教室を離れ、他の生徒と昼を共にしていた彼女にその行為はほぼ実現不可能です。」


「他の生徒とって、そんなはずない。彼女と一緒にいる生徒なんて―。」


それだけは。

それだけは自信をもって言える。

彼女に友人はいない。

それどころか、生徒と話す事だってほとんど見たことがない。

そんな彼女が昼休みの間ずっと誰かと共にいたなんてありえない。


「それがいたんですよ。もっとも、彼女が教室にいなかった事なんてクラスで昼食を摂っていた何十人もの生徒が証明してくれるでしょうから、特に意味はありませんがね。すぐに教師の方もそのことに気付く事でしょう。いえ、もう気付いているから彼女に処分を下せないのかもしれない。困ったものでしょうね。一番怪しい来栖さんの物ではないのは分かってしまっているが、事実煙草はそこに落ちていた。一体それは誰のものだったのだろう?

そういった状況で煙草を数本もったあなたが現れた。それが何を意味するのか、分からないほど事態は難しくないでしょう。」


確かに、事態は簡単で単純だ。要は犯行の現場を私は見られてしまったのだ。

別に証拠がどうのという以前に、どう見たって全てを仕組んだのは私だ。


「…私の事をどうするつもり?」


「別にあなたをどうこうするつもりはありません。ただ私からあなたに要求するのは彼女、来栖彩乃の潔白の証明と、処分の撤回だけです。それができればあなたがそのためにどうのような嘘をつこうがかまいません。ただ彼女にかけられた疑いだけは晴らしてもらいます。」


「な、なんで彼女のためにそこまで。」


先ほど、誰かが、昼休みの間来栖彩乃と共にいたという話の誰かとはもしかして目の前の彼の事なのだろうか。


「彼女ともっと話をしたいと思っている生徒がいるんですよ。だから冤罪で謹慎になんてなってもらってはこまるんです。」


「彼女は誰も寄せ付けたりしない。」


それは彼女を見てきた私が一番知っている。

彼女は友達なんて作らない。少なくともこの学校の生徒とは。


「それは彼女に誰も話かけないからです。怖がって話しかけないから何も分からないんですよ。好きになるにせよ、嫌いになるにせよ、ちゃんとその人と話して、その人間を知らなくてはいけないと、私は考えます。あなたが来栖彩乃に抱く気持ちを間違っているとはいいません。ですが、その気持ちによって突き動かされる行動は、まず彼女と直接接することであってほしいと私は思うんです。」


私は確かに彼女をいつも遠くから見るだけだった。

ないものを持っている彼女がまぶしく見えてしまった。

そうだ、初めは私は彼女の事が好きだったはずだ。

でもある日嫌いになった。

嫉妬した。

自分の想像と違う彼女の姿を見て勝ってに嫉妬し、逆恨みした。

確かに私の気持ちには何一つ根拠がない。

私はまだ本当の彼女の事を何もしらない。


「先生には正直に話すわ。」


自分の罪を自白する犯人の気持ちがなんだかわかった気がする。なんていうのは大げさだろうけど。


「ありがとうございます。私の方からは一切の事情を漏らさないことをお約束します。」


本当に彼の目的は来栖彩乃を助けることのようだ。


「最後に一つ聞かせて。」


「何でしょうか。」


「あなたは来栖彩乃の友達なの?そもそもあなたは―。」


誰なの?と聞こうとして私はまたしても言葉を奪われた。

彼はその綺麗な顔でにっこりとほほ笑んで



「あなたには教えたくありません。」

はっきりとそういった。


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