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有栖川美月

有栖川美月。

15歳。高校1年生。

成績優秀。

運動神経抜群

容姿端麗。




なんてある意味創作的常套句を何度も繰り返すというのもあまりに芸がないので補足の補足の補足をしていこう。


ぶっちゃけると、そこまで成績がいいというわけではない。


まあ、甘く見積もって上の下といったところか。

場合によっては簡単に中庸を下回る。

運動神経にしてもしかり。


もちろん平均よりは上だが、それでも抜群といえるほど突出した能力があるというわけではない。

 


とまあ本格登場もしていないのに、いきなりの衝撃的事実であるのだが、容姿ということのみとってみればそれは間違いなく文字通りの『端麗』といって問題ない。


 高校1年にしてさながら芸能人のモデルに匹敵するスタイルを持ち合わせている。

数値化してしまえば明らかに容姿が抜きんでて高いというわけだ。

そんな彼女だから他のステータスも勝手に底上げされてしまったわけだ。

すごい見た目が不良の人間が少し親切なところをみると通常の人間がするよりもすごく良く見えてしまうという、まあとどのつまりはギャップが強調されるという現象があるが、それと似ているかもしれない。

 彼女はその類まれなる容姿ゆえに成績優秀、運動神経抜群、なんていうレッテルが副産物として生まれてしまったというわけだ。



 4月末現在。高校1年生の彼女は入学してまだ1カ月もしないうちに学校で知らない人間はいないほどに注目の的となってしまっていた。彼女の所属クラス、1年2組には未だに姿を見に来る生徒が絶えない。それどころか当初よりも増えている。始めは恐る恐るといった感じの視線も、次第に遠慮がなくなり、今や大勢の生徒が廊下から彼女の姿を見にやってくるようになった。本当に芸能人が田舎の学校にやってきてしまったような扱いで、遠くから眺める者は多くても、だからといって彼女に話かける者はほとんどいなかった。

 それがこの1カ月弱の状況。否、中学からの状況ともさして変わらなかった。




「ねえ、聞いた?昨日の美少年の話?」

彼女の横からはそんな雑談の声が聞こえる。当然会話の相手は美月ではない。

「なに、それ?」


「昨日部活で遅くなった子が見たらしいんだけどね、なんかぱっと見女の子みたいな美少年がいたんだってさ。それがもうすごい綺麗だったんだって。」興奮しながら女生徒は話す。


「何その胡散臭い話。」


「でもそんな綺麗な子だったら噂にでもなってそうだけど、全然見たことない生徒だったみたいで、それがいま逆に話題になりつつあるって感じ。」




美月は自分の席で本を読みながら、耳をそちらに傾けていた。



(び、美少年ってやっぱり私のことよね。)



美月は確かに昨日、男子の制服を着て、普段つけているウィッグを外して、ショートの髪型にし、ある女生徒に会いにいった。


 会いに行くこと自体は他でもない兄である煌斗からの依頼だったのだが、彼が『男装』してという条件をつけたのは、美月にそういった趣味があるのを知っていたから。『正体不明』の生徒を創り出すのに最適だと考えていたからである。


 だが、いくら男装するのが趣味とはいっても時々、街を散歩するくらいである。まさかまだ入学したての学校で男装することになるとは美月自身思っていなかった。

 放課後で誰もいないと思っていたが、やはり見ていた生徒もいたのだ。昨日の今日で早くも噂になってしまっている。


(もっときつくお仕置きしておくべきだったかしら。)


美月はこの状況を創り出した実の兄の顔を思い浮かべてイライラする。


(で、でも必死に謝るお兄ちゃんったら可愛かったなあ。)


美月はこの状況を創り出した実の兄の顔を思い浮かべてニヤニヤする。


とまあもちろんそれは彼女の心情内の表情であり、表面上は凛とした『美月様』の体裁を保っている。





「あんた何さっきからニヤニヤしてるん?」



保てていなかった。



急にかけられた言葉が自分に対するものだと気付くのに美月は数秒間の時間を消費した。


それも無理はない。この一カ月の間、彼女の事を眺める生徒は大勢いたけれど、話しかけてくる生徒なんてほとんどいなかった。あっても事務的なもの。そんな自分の状況をよく理解していた美月だけにまさか自分が話しかけられているなんて思いもしなかった。


「なんやさっきから怖い顔したり、ニヤニヤしたり、おかしななやっちゃなあ。」


美月が固まっている間にも次の言葉を発してきたのは前の席の女生徒だった。


名前は、赤井沙紀。(あかいさき) 美月が出席番号2番で彼女が1番である。

どうやらプリントを配るために、後ろをふりかえっていたらしい。


「べ、別に、そんな顔してない。」


美月はようやく声をだす。


「しとったって。ウチが振り向いても全然気づかへんし。」


関西弁を話す彼女は椅子に座っていてもわかるくらいに背丈が小さく、ボブカットの髪型が異様に似合っている。

 ランドセルを背負わせれば100%小学生と間違われるだろう。


「なんや、失礼な事考えてへん?」


意外に鋭かった。


そんな彼女だからこそ、美月の微妙な表情を読み取ったのかもしれない。実際彼女の表情の変化に気付いたのは沙紀だけで、他の生徒は美月に遠慮なく話しかけた者がいる事に衝撃をうけていた。


「普段全然話さへんから不思議におもっとったけど、心ん中で色々考えとるタイプやな。」


「別にそんな事は…。」


歯に衣着せぬとは言うが、彼女の言葉は遠慮がなさ過ぎて美月はなんて言っていいか分からなくなってしまう。

 もともと美月は別段頭の回転が速いわけではない。昨日の探偵役はすでに台本があったからできただけにすぎない。


しかし、そんな彼女の言葉に困惑を覚えているのは美月だけでなく、周りで会話に聞き耳を立てている生徒たちも


「ついに、あの子美月様にも話しかけたわ。」

「いつか絶対こうなるとは思っていたけど。」

「やっぱり誰が相手でもあの失礼な態度はかわらないのね。」

「クールビューティの美月様のイメージが壊れちゃうって。」

などと囁いている。


どうやら彼女のこの性格は既に周知のものであったらしい。加えてあまり好意的なものではないようだった。


そんな視線などものともせずに彼女は美月の顔をじっと見つめる。


「というか、めっちゃ綺麗な顔しとるなあ、自分。うらやましいわ。」


くりくりとした瞳で見つめてくる彼女は本当に無邪気な小学生のようで美月は素直に彼女の事を可愛いと思った。しかし、彼女の勢いに押されて、中々声が出せなかった。


「あんま、しゃべらんのなあ。えっと名前なんやったっけ?」


その言葉に美月はもちろん、周りで聞き耳を立てていたクラスメイトも驚愕する。美月は驚愕というレベルではないが、少なからず驚いた。入学以来、恐らく上級生にすら知れ渡っている彼女の名前を一つ前の席の人間が知らなかったのはそれは驚きである。

 しかし、不思議と美月は不快感を抱かなかった。

 彼女のあまりに無邪気ともいえる言葉に呆気にとられたともいえる。


「あ、有栖川美月…です。」


なぜか敬語になってしまう美月だった。


「ああ、あんたが美月様か。どおりで綺麗なはずやわ。」


どおやら『美月様』の名前は聞いたことがあったらしい。それにしても一つ前の席にいて彼女は一度も自分の顔を見なかったのだろうか、とさすがに美月は少し落ち込んだ。


「ウチは赤井沙紀。よろしゅうな。」



そういう彼女の言葉はやはりすがすがしいくらいにまっすぐだった。


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