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クッキング解説実況:炒飯を作る

作者: 朝比奈和咲

 気楽に読んでください。読者の役に立ちそうなことは書いてありませんので、料理に関しての知識を得たいのならば、市販の料理本やレシピ集を参考にすることをオススメします。


 5月17日 誤字の訂正をしました。ご指摘をして下さったお方、本当にありがとうございました。

 お昼御飯としてこれから炒飯(チャーハン)を作りたいと思う。

 まずは材料の用意から。大学三年生になった私は今年から大学近くのアパートで一人暮らしを始めたばかりで、炒飯を作るのも初めてなのだがそれぐらいは一人で出来て当然だと思っている。材料は全て一人前の分量になる。私が理想とする炒飯の材料は次の通り。


 冷凍庫に眠っている冷凍御飯、御茶碗にして約二膳分(約200~250グラム)

 生卵、一個 消費期限が近い物から使用。期限を過ぎていた場合、五日までなら可

 肉 約50グラム 豚、鳥どちらも可 無ければウインナーかハム

 葱 適量 野菜室にあるならば使用する

 カマボコ 適量 あるならば使用する

 キムチ 20~30グラム あるならば使用する 賞味期限は己の嗅覚を信ずる処にあり

 油 適量よりやや少なめ 油はサラダ油が良い 胡麻油はなお良い。

 醤油 小匙一杯 運動部の方々は大匙一杯でも可

 味の素 適量

 鶏がらスープの素 適量 気持ち多めに使用すると旨味が増す

 塩、胡椒 適量 気持ち少なめに使用すると失敗を回避出来る可能性が広がる


 今回、冷蔵庫には生卵と葱はあったものの肉はウインナーしかなく、カマボコとキムチはまるで無かった。本来この二つを使用した方が味に広がりが出来、量も増すためにより美味な炒飯が出来上がるというメリットがあるのだが、炒飯のためだけにコンビニに行き購入するのも億劫なので今回はその二つを使用せずに作ることにする。


 では調理を開始する。

 ますは冷凍御飯を解凍することから始める。冷凍御飯は電子レンジで手軽に解凍できる。時間は約三分から五分程度になるため、その待ち時間を利用して他の材料の下準備も行う。冷凍御飯の解凍方法は冷凍庫から取り出したプラスチック製の容器に入る冷凍御飯をそのまま電子レンジに入れ、ボタン操作でタイマーを三分に調節した後にスタートボタンを押す。また、ラップに包まれた冷凍御飯を解凍する場合は耐熱皿の上にそれを置いた後に同じようにすれば良い。

 スタートボタンを押すと、音と共に電子レンジの内部が照明で黄色く照らされるので、それを横目で確認した後、材料の下準備を始める。使用する道具はまな板と包丁だが、まな板を後で洗うのが面倒と思われる方は最後に炒飯を盛り付ける深皿をまな板代わりに使用すると良い。皿の裏面は平らな面積が多いので、綺麗な紙を一枚その上に引けばまな板として十分使用できる。私の台所にはそもそもまな板などは無いので深皿を使用する。

 深皿の縁がしっかりと面の上に着いていることを確認した後、裏面の上にパチンコ店のチラシの裏白の面を引く。そして材料をその上に乗せる。今回はラップで包まれていた購入日不明のウインナー二本だけになる。葱は細かく切り分けられ小皿の上に乗せられて冷蔵庫に閉まってあったため、今回はそのまま使用することにした。ウインナーを包丁で適度な大きさに切り分ける。やや切りにくい。

 切り分けた後、そのウインナーを紙に乗せたまま深皿の裏面から安全な所に移動させる。切り分けるのに苦労したせいか、形が不揃いになってしまった。深皿を固定しなかったせいか、あるいは包丁が尖れていないかのどちらかが原因かと思われる。

 電子レンジから音が鳴った。同時に電子レンジの動きが止まった。私は電子レンジに向かい、中の様子を確かめる。御飯は冷凍では無くなったが、若干まだ冷たい。その場合、タイマーをとりあえず二分に設定した後、またスタートボタンを押す。そして内部が黄色く照らされたのを確認した後に先ほどの下準備の続きを開始する。

 次は生卵を割り、中身をボウルに入れる。生卵を割る際には殻がボウルに入らないように注意することと卵白で自分の手を汚さないことに注意する。殻がボウルに入ってしまった場合は箸を用いて取り除くこと。取り除かないと食する時に口の中で不快感を味わうことになるか、若しくは口内で殻が刺さり痛みを伴うこともある。

 ボウルに入った生卵を箸でかき混ぜる。かき混ぜる回数はお好みで宜しい。私はその時の気分に任せている。オムレツを作るときのように空気をかき混ぜながら、なんてことは考えないでよろしい。

 調味料となる醤油、味の素、鶏がらスープの素、塩、胡椒は直ぐに取り扱える場所に置いておくこと。

 電子レンジから先ほどと同じ音が聞こえた。電子レンジの扉を開けると中から少し湯気が立ち昇って外に出て来た。御飯が解凍されたことを確認したので、さっそく調理に入ろう。御飯は熱いので鍋掴みを着用して電子レンジから取りだした。炒飯は炒める速さが勝負になるので手際良く調理できるように心がける。


 まずは大きめのフライパンをガス台の上に置き、強火で熱する。白い煙らしき物がフライパンから発生したのを確認した後、フライパンに油を静かに引く。この時、油が多少跳ねる場合があるし、跳ねやがった、あちぃ。私は今回、サラダ油を使用した。油が()ぜる音に脅えちゃダメだ。中火にしよう。

 サラダ油の次はボウルの中の卵をフライパンにかき混ぜながら入れる。フライパンの上で卵が広がると、すぐに生卵は固まり始め薄焼き焼卵に変わっていく。この生卵が薄焼き卵に変わる前に、解凍した御飯をフライパンに入れたいのに、プラスチック容器から御飯を取り出していなかった。私は早く御飯を入れたいのに容器の蓋も開いていない。こうしているうちにも卵は変化を続けていくのに、私は容器の蓋が思ったより熱いために素手で触ることが出来ない。卵はほぼ固まろうとしている、私は咄嗟に卵が固まるのを防ぐために箸で卵をかき混ぜた。そして火を一旦止めて、台布巾で手のひらを覆い、容器の蓋を開けて杓文字を使ってフライパンの中に一気に入れた。そしてすぐさま火を点けた。

 フライパンの余熱のせいもあり、卵はほぼ炒り卵になってしまった。が、先ほど再び火を点けたので悔やむ時間も残されていない。御飯が音を鳴らしながらフライパンの上で焼かれていく。焦げないように杓文字を使って炒める。本当はフライ返しや木ヘラを用いたかったが、手元に一番近かった物が杓文字なのだから仕方がない。杓文字は持つ箇所が短いため、とにかく熱が熱い! ふざけるな! 

私は杓文字を投げ捨てフライ返しを棚の中から取り出し炒めることを再開した。御飯は一向にパラパラになる気配を見せず、団子を温め直しているかのような炒め物になりつつある。黄色いはずの卵が黒さを帯び始め、食卓の先行き不安を私に訴えているかのようだ。

 それでも後には引けない。勤労学生である私は給料日前には非常に財政面での危機を迎えてしまう。そのため食費はとにかく切り詰めなければならないのだ。

 焦げ行く卵に冷眼を向けつつも私は調理を続ける。白い蒸気が焦げくさい臭いと共に煙に変わろうとしているため、私に無駄口を叩く暇などない。

 ある程度炒められた、ということで次に切り分けた材料をフライパンに入れる。まずは野菜から、微塵切りにされていた青いとこだけの葱を入れる。なぜ微塵切りにされているのか現在の私には見当が付かない。が、しかしその時の私はそうするしかなかったのだと思いたい。

 微塵切りの青葱はヒラヒラと紙吹雪のようにフライパンの上を舞いながら中に落ちていった。ここまで微塵切りにされていると炒める必要がないように感じられた。軽く炒めるためにフライ返しで中身をかき混ぜると、葱はまるで海苔のように御飯にくっ付いた。またはフライパンの外に風で舞って行った。丸く閉ざされた黒の灼熱地獄から自由を求め逃げ出した緑たち、幻想的な光景が見られたのだと私は勝手に解釈する。

 ウインナーを入れなければ。すぐさまウインナーに手をかける。卵からは反旗の印となる黒い煙が徐々に上がり始め、御飯は一層団結力を増して小さい焼き御握りが出来上がり始めた。ウインナーを手で掴むとすぐにフライパンに入れた。油と水が跳ね、私に襲いかかってきた。ものすごく熱かったが、そんな怒りに身を任せている暇などない。私はフライ返しですぐさま炒めながら混ぜ合わした。

 ここまでくれば火を止めて皿に盛り付けるだけである。やっと今日の昼飯にありつけることが素直にうれしい。私は先ほどまな板として用いた深皿の方に目をやり、驚愕した。

 今まで全く調味料を用いていない。おい、どーすんだよコノヤロー。

 私は火を消す前に小さいボトルに入っている醤油を中心から渦巻状にかけた。ボトルの口はやはり大きく、必要以上の醤油が炒飯に降り注いだ。醤油が爆ぜる音と共にほとんどの炒り卵が焦げと醤油で真っ黒になった。御飯もその被害を被った。

 だが、私は気にしない。構わずに醤油が炒飯に馴染むように炒め続ける。醤油の爆ぜる音は次第に大雨のような可愛い音に変わっていき、そして火を弱めると音は御飯とウインナーが焼かれるだけの小雨のような静かな音になっていった。

 フライパンの中に私は塩と胡椒をとりあえず一振りだけいれ、軽く混ぜ合わせて火を止めた。火を止めてもフライパンの中でジリジリと静かに響き渡る音は収まらない。深皿にフライパンの中身を落とし入れると、フライパンからの音は消え、台所が静寂に包まれた。深皿の中には『炒飯』が入っていた。

 鶏がらスープの素は次回使うことになるだろう。今回は使わなかった。


 唖然としながらも私は散らかった四畳間の部屋にその『炒飯』を持って行き、こたつテーブルの上に置いた。匂いは醤油の香りが強く、そのためか焦げ臭さは気にならない。見た目はほぼ黒い、その中に若干の緑を彩る葱と焦げ目のない赤いウインナー。卵は確認できず、御飯は固まって丸まっているのが多い。ぼてんとした印象の強い料理である。

 スプーンを忘れた。箸で炒飯が食えるわけがない。私は台所に戻りスプーンを手に取った。ついでに冷蔵庫の中を確認した。中は酒類以外の物はほとんど入っておらず、オカズもツマミもない。

 うどんが一玉だけ残っていた。それを見てなぜ葱が微塵切りにされていたかを思い出した。それはうどんのつゆを捨てるのが勿体無いが、ただ飲むだけでは飽きると思い、葱を微塵切りにしてつゆに混ぜれば美味しくなるのではと一昨日勘違いしたからだった。結果は喉越しがザラザラし歯に葱がくっつく、つゆの味は変わらない、惨敗だった。残った葱も捨てるのが勿体無いからああやって小皿に残して置いたのだった。

 ない物はない。冷蔵庫にオカズとなる物はない。あの『炒飯』をあのまま食わなければならないことが残念で仕方がない。

 こんな時、せめてキムチがあれば良いのにと本当に思う。あれさえあれば例え炒飯の味付けに失敗してもごまかして食べることが出来るのに。あれさえ混ぜられたら失敗はしなかったのに。

 そんな後悔は役に立たない。私は冷蔵庫を閉め、ゆっくりと食場に戻った。『炒飯』の前に座る。温かいのがせめての救いなのだろうか。

 スプーンですくう。パラパラしていそうな御飯の部分を選んですくった。いざ、試食。

 (あれ、おいしい、うっそー、マジで?)

 そんな訳ないない。苦い、苦いよ、しょっぱいよ、葱臭いよ。自分で作れば何でも美味しいなんてウソだったよ。

 こんな時、側にいる可愛い女の子が作ってくれた手料理という設定があれば良いのに、なんてことを考え始めちゃう自分が悲しくなる。可愛ければ何でも許されることはない、私はせめて料理の得意な人と共に生きてきたい。

 そんな出会いも期待できない学生生活。この苦い炒飯を噛み締めながら、私は今後の人生について考え始める。あ、でもやっぱり可愛い笑顔があれば許されちゃうかもなー。いや、でもこんな『炒飯』を出されたら恋も愛も冷めるよなー。あー、Hしたいなー。

 そして私はこれをなんとか食べ終えた。得たものは満腹感と達成感のみであった。


 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 清水義範先生、お好きですか? なにげない日常をちょっとした脱線で面白く見せる名手ですよね。 この炒飯の実況も、そんな感じで話が進んでるなーと思いました。 こういう感じの作品は好きです。 惜…
[一言] うぅむ。これは実験的……料理本なのか小説なのかさっぱりわからん。 筒井康隆の短編を思い出した。こちらは歩く方法を延々と綴る。 うぅむ。実験精神はいいゆえに、そこはプラス5だけど、面白い…
2011/04/13 00:39 退会済み
管理
[一言] まぁ気にするでない。初心者には良く起こりうる事でござろう。 拙者の本人格殿も鍛錬に鍛錬を重ねた結果、今では単独で料理ができるようになったのでござるよ。
感想一覧
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