第五話 嘘つき
クネつきながら、僕は「行く」と返事をした。八角さんと2人で歩いてたが若干ながら早足で歩いた。
ぶぶ、とスマホが鳴っている。
『何時まで?』と束縛魔からきている。
まだ、忙しいのを装えるので、無視した。
15分くらい、いや30分くらい歩いたかな。なにせ、記憶にも残らないような会話していたから不安定だった。
早くやらせろぉ、とか思っていたのだ。
ついたのは普通のマンションだった。こんな近いのに校区が違うとずっと会えないものなんだな、としんみり。
点検がされてあるのか疑問に思うくらいのエレベーターで10階にいって、廊下を進み、ガチャっと開けるとそこは会議室だった。
は? って感じだった。
親がいないからと家に連れて行かれたのに実際に開けてみると、広い部屋に白い服を着た大人たちが15人くらいいるんだからね。
そう、15人。少なくとも15人。それ以上はいたと保証できる。
その人たちがなにか議論を交わしている。
「布教する、布教する」
「寄付金、寄付金」
「愛、愛」
みたいな事を言っている。
もう嘘つきやん。
八角さんが「こんにちはー!」と挨拶して、みんながこっちを向いて挨拶を返してきた。
僕はなに、宗教? キモとか思いながら「っす」と挨拶風の会釈を返して八角さんについて行った。
八角さんは会議室の脇を通って奥に入っていく。
「ちょっと君」
呼び止められた。議長席っぽいところに座っている女の人が僕を見ていた。何にも色気がない全年齢対象みたいな女だった。
「挨拶した方がいいよ」
僕は消え入りそうな声で挨拶した。女はにっこり笑った。
会議室のホワイトボードの裏、みたいな近さの部屋に八角さんは入って行った。
まだ入っていなかったけど、聞き覚えのある音楽が部屋から流れていた。隣のなんとか、とか、借り暮らしのなんとかとか。
そういう映画のBGMがオルゴールバージョンで流れていたのである。
「入って」
言われて入ると、壁や扉のなんと薄いことか。本気で殴れば穴が開きそうだった。
そして、狭い。2畳くらいしかない。
テレビとちっさい棚。棚には本が収まっていた。
もののけなんとかのBGMがテレビから流れていた。
テレビの画面には、海の上をゆっくりと走る船の映像が流れていた。
申し訳ないが、古臭いと思った。田舎娘。
「私ね、この曲大好きなんだ」
「そうなんだ」
正直言って僕は逃げ出したかった。
だってわけがわからないからね。著作権フリーかなんかの映像と音楽を流してるし、会議室の裏だし、そもそもここは一体何、って感じだった。
ぶぶぶ、とスマホが震える。
『店行ったけどいないよね?』
ヤバい、家が燃える。
『あとそこどこ?』
あちゃーと僕は思った。
位置情報アプリを忘れていた。彼女はそれで僕を24時間監視出来るようになっているのだ。
やけに静かだなと思っていたが、泳がせて調査をしていたらしい。
「ねぇ……見て」
言われるともう八角さんは脱いでいた。その艶かしい姿に僕はあらゆるものがどうでも良くなった。
もういいよね、大変だし。さっさと終わらせれば丈夫だから、という気持ちだった。
半裸の八角さんが僕に覆い被さってきて、その顔が逆光になって黒い影のようになった。
手を伸ばして柔らかい部分を触った。
すると、違和感があった。
触っているところではない。
八角さんの後ろ。
もう、なんか明らかに別の人みたいなのが立っていた。
視線に気付いて振り返った八角さんが、言った。
「お父さん」
うわぁ、これはまだ未遂とは言えヤバすぎる。うわぁ、もう嘘つきすぎやん。思いが交錯した。
僕は八角さんをゆっくりとどかして上半身裸で、お父さんに頭を下げた。
小学校からのなかで、さっき出会ってとにかくすみません、と何度も謝った。
お父さんは禿げているんだが、無言でじっとこっちを見ていてすごく怖い感じなのである。
お父さんは無言で、ズボンに手を突っ込むと妙なものを取り出した。
ゴム手袋だ。
殺す気なのかもしれない。
僕は謝った生きるために。
お父さんはにっこりと笑った。
「私はこういうのをほんとは早く教えたかったんだよ」
すると僕のズボンを脱がそうとしてくる。
なんか宗教的な事をいいながら、抵抗しないで、安心して、とか言っていたができるわけないだろう。
僕は踵でお父さんの鼻を蹴り抜いた。
もうそれから、どわーっと走って上半身裸のまま逃げ出した。
会議室を抜け出して、階段を駆け降りて、はぁはぁ肩で息をしていると、エレベーターでみなさんが降りてきていた。
こりゃ死ぬばい、と思っていると「ねぇ」と声がした。
彼女が立っていた。ポニーテールが揺れていて、自転車のハンドルを持って歩いてきている。
「何してんの」
「あ、いやこれはなんというか。宗教の勧誘につかまって」
言い訳をしていると、みなさんはぞろぞろと上に上がって行った。
その中にいた八角さんは寂しげな視線を僕に向けていたが、みなさんと一緒に上がって行った。
彼女は僕を詰めた。
「嘘ついたよね?」
「それはちがくて事情があって」
僕はめちゃくちゃに弁解した。
結果的には許してもらったので、家は燃えずに済んだ。
いや、ほんと不思議な事だった。なんだと思う?
僕も知らない。




