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第一話 懐かしあの子

 これはもう昔の話で時効みたいなものだから話していく。


 わけわかんない話なんだが、浮気の話ってくらいなら、そうといえばそう。みる人から見れば未遂の話かもしれない。そう、きっとそう、多分そう。


 その頃の僕っていうのは、見た感じ陰キャだった。単にシックなだけなのだが、今見るとそう見える。


 うちは家が貧乏で、母子家庭で、携帯もAndroidのめっちゃ古いやつだったから、iPhoneを毎年買い換える友達がうらやましかった。


 だからみんなが部活に勤しんでいる間に、バイトとかしたりして、知らない人に頭を下げていた。


「ありがとうございます」


 こんな感じで。


 僕が客に頭を下げている間に、同級生のみんなは「気張っていこう!」と青春を謳歌していたのである。


 同じ時代を同じ歳で生きている同級生を、なんか違う世界の住人みたいだな、と思っていた。


 帰り道、僕はとぼとぼ歩く。同い年に追い抜かれたりする。みんな並んでいる。のに、僕1人。


 今日も追い越される日々。


 夜も9時くらいかな、バイト終わって疲れたな、と歩いてたんだが、公園に見知った顔を見つけた。


 ここの公園は四六時中うっすらと電気がついていて、ブランコがライトアップされているように見える。


 多少不気味だな、と日頃から思っていたが、そこに制服姿の女の子が座っていた。他校の制服だった。


 近づいていった。知った顔の気がしたのだ。


 ふらふら、とに歩み寄るうちに、むこうもこっちに気がついて、なんか変な人が来てるという拒否感溢るる態度から、え、もしかしてあいつじゃない? みたいな顔に変わっていって、しまいにはブランコから立ち上がって僕に手を振ってきた。


 小走りでやってきたその知った顔は、僕の胸の中に飛び込んできた。いい匂いがした。


「え? マツくんじゃん! 久しぶり」


「八角さん……」


 僕がマツくん。つまり松木の愛称である。


 知った顔というのが八角さん。実のところ、僕は八角さんにあって非常にドキドキしていた。


 そのせいで昔通り、ヤスミンとは呼べなくなっていた。


 僕は高校生一年生で、八角さんとは小学校が一緒だった。


 なんなら知った顔というわけでもなく、はっきりいうと僕はそれはもう八角さんのことが好きだった。


 小学校のときから、凛とした感じで可愛いと美人の中間点みたいな顔をしていて、なのに人懐こいギャップにやられて子供の僕はすぐに恋に落ちてしまったのだが、中学は別々のところに通うことになって、それ以来会っていなかった。


 卒業式の時に告ろうと思っていたが、チキってできなかった。


 中学の間も、僕は正直言って八角さんにセンチメンタルな感情を抱えていた。


 プラトニックラブを想起させる夢を見て「八角さん……」と呟いたりすることもあった。


 なんなら、今でも八角さんでエロい事を考えないようにしていた。八角さんの裸を想像する自分を汚らわしい、と叱責するなどしていたのである。


 久しぶりに会ったのに僕たちは、


「元気?」


 とか、そんな当たり障りのない話をしていた。夜の公園で。


 逆にエモかった。


 永遠に続いたらいいのに、と当たり障りのない事を思っていた。


 僕のスマホがぶぶぶと震えた。


 うわぁ、嫌だなぁと思った。


 彼女からだった。

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