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エンゲブラ的短編集

【3分ショート】王立学院では婚約破棄が空前のブームようなので。

作者: エンゲブラ

「レイチェル・カーヴェル、君は私の最愛の御令嬢を傷つけた。よって君との婚約は破棄とする!」


「ジークフリート・レオンハルト、私は真実の愛に目覚めました。貴方との婚約は破断とさせていただきます」


―― ここ、王立学院の食堂では、今日も二組の貴族カップルが、婚約破棄の茶番劇に興じている。


新たに国王となったジギスムント・ヴェルフォール。この学院での在籍中に、彼は婚約者である公爵令嬢が聖女を虐めている場面に偶然遭遇し、断罪。令嬢との婚約破棄後、聖女マリアンヌとの真実の愛に目覚め、最終的には聖女が国母となった、というエピソードを持つ新国王である。―― そして、その真実の馴れ初めから派生したのが、この婚約破棄ごっこである。


現・国王夫妻に倣い、今では「破棄するための婚約」が、貴族の間ではブームとなっていた。「最初の婚約は実らない」などという、新しいことわざまで生まれる始末だ。


「いつものことながら……何とも馬鹿らしい光景だね、セレーネ」


昼食に同席していたスナイデル子爵家の三男・ヨハンが、溜息をついた。ヨハンは、グリュンヴァルト侯爵家の令嬢である私・セレーネの婚約者である。家格はまったく釣り合っていないが「どうせ破棄する婚約だ」と父・トリスタンも、これに同意。私たちは学院の入学前に、急いで婚約をした。


スナイデル子爵家は、グリュンヴァルト侯爵家の寄子であり、婚約を破棄しても何の支障もない。私とヨハンは、幼馴染で気心の知れた仲でもあったから、父も気軽にそれを許した。


「セレーネ嬢、そこにいる子犬との婚約破棄はまだですかな?」


ガイウスが、私たちの座るテーブルの前にまでやってきて、いつものように不快な笑みを浮かべた。私は、ただニコリと会釈し、彼をやり過ごした。


「やはり婚約破棄の場は、現国王陛下と同じく、卒業記念のパーティーがお望みですかな?」


ガイウスは、レクサント公爵家の嫡子で、次期公爵でもある。家格的にも、私と完璧に釣り合っているため、自分の相手は私で間違いないと信じ込んでいるらしい。


私は、自分で言うのも烏滸おこがましいが、白磁の肌を持ち、ヘテロクロミア(=左右の目の色が互いに違う金と碧)の瞳、白銀の美髪をなびかせる絶世の美女としてうたわれていた。そして、子犬呼ばわりされたヨハンは、事実、子犬を思わせる愛らしい笑顔を私にだけ見せる、私の大事なひとであった。


卒業パーティーの翌日には、ヨハンも教会に結婚が認められる年齢となる。本来であれば、結婚の誓いには両家の親の同意が必要となるが、婚約をしている者同士の場合、それも不要であった。


あとは卒業パーティーの夜に、ふたりでパーティーを抜け出し、朝まで隠れたら、教会に行くだけで結婚が成立する。それまでは、何となく不機嫌なカップルを演じ続けるだけでいいのだから、これほど楽な、秘めたる恋もなかった。



その後、セレーネとヨハンの幼馴染同士が、家格差を乗り越えて添い遂げる物語が話題となり、それに倣う者たちが続出。


けっきょく、ふたたび婚約の形が正常化していくきっかけとなったとされる本作である。



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― 新着の感想 ―
素敵な小品、気軽に手に取って手に取った自分を褒めたくなる作品ですわね。
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