第三十三話 これは、旅の終わりから始まる物語
さらさらと風に揺れる木々の葉が擦れあう。
夜明けの白んだ空の下、黄鶴らが拠点としていた洞の前に、静焔は立つ。
頬を撫でる風は冷ややかで心地よい。
隣にいる雪焔、霆華、馬順もまた、今はこの静謐な空間に溶け込んでいた。
静焔らの前で蹲っていた黄鶴がゆっくりと立ち上がる。
「もう、いいのか」
「……はいっす。もう言いたいことは言ったっす」
そう言って、黄鶴は振り返る。
足元には、彼女が先ほどまで手を合わせていた蒼達の墓がある。
埋葬し、その上に小柄な人間ほどを大きさの岩を置いた簡素なものだ。
蒼達が振るった大振りの一刀は、その岩の前に突き立てられている。
「みなさんも、ありがとうっす。この七日間、仲間探しも手伝ってくれて……」
黄鶴は蒼達の左側へ並んだ五つの岩へ目を流す。
「……まだ聞いていなかったが、黄鶴。お前はこれからどうする」
黄鶴は一瞬、迷うように視線を泳がせたが、すぐに静焔を見つめる。
「可能でしたら、静焔様の元で働きたいっす……。霆華や雪焔と一緒に」
「よし、では共に参ろうか」
静焔は迷いなく黄鶴の言葉を受け入れた。
それを当然とでも言うように、霆華と雪焔も黄鶴に笑みを向ける。
「――! ありがとうっす、みんな!」
黄鶴が流す涙を、雪焔が優しく拭う。
晴れ晴れと笑う三人を横目に、静焔は馬順にも同じことを問う。
「俺ぁ、オメェらとはここでお別れだぁ」
馬順の言葉に、霆華がいち早く振り向く。
「馬順、一緒に来ないのかよ」
「あぁ。今の俺じゃあ、このオッサンにゃあ勝てねぇから」
馬順はチラリと、静焔が腰に下げた“龍刃丸”を見る。
「もっともっと力ぁつけて、いつか会いに行ってやるから首洗って待っとけよぉ」
霆華は、その言葉を自分にも向けられているように感じる。
スッ、と霆華は右手を馬順の前に差し出す。
「――俺も、絶対もっと強くなるから。大頭の前にまず俺と、だ」
「ハァ!生意気言うじゃねぇか霆華のくせによぉ」
馬順は霆華が差し出した手を力強く握る。
「――楽しみにしてるぜぇ」
握った手を離すと、馬順は一人、森の奥へと消えていった。
一度も振り返らず、ただ、真っすぐに。
「――さて、ではみんな。屋敷へ帰ろう。――寄り道は無しだ」
「父上、前線砦の皆さんには顔を出しませんと」
「あぁ。宋健がお前の顔を見たら、また泣き崩れそうだなぁ……」
ゆっくりと流れる時間の中で、彼らはごくありふれた会話をしながら歩き出す。
後ろを歩く黄鶴の背を押すように、一陣の風が吹いた。
彼女が振り返った先で大振りの太刀が陽光に瞬いている。
「――行ってきます」
黄鶴は小さく呟くと、前を行く静焔の背中を小走りで追いかけた。
――――――――了




