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第二十七話 魔蔓延る大森林 未来への継承

 血が、止まらない。

 

 森の中の大木の根元で、黄鶴は必至に蒼達の傷口に布を当てる。


 「蒼達様!蒼達様!しっかり……」


 本来であれば、こうしている時間はない。


 すぐそばの広場では、雪焔が単独で赤魔軍の足止めをしてくれている。


 霆華は近くで魔軍の追撃が無いかを見張っているため、雪焔の加勢に向かうことはできない。


 (自分のせいっすね……)


 赤魔軍から一撃を食らったあの時。


 なぜ、敵の追撃を予見していなかったのか。


 なぜ、より確実な回避を選択していなかったのか。


 なぜ――。


 「黄……鶴……」


 か細く、漏れ出すように、蒼達が黄鶴の名を呼ぶ。


 「蒼達様!黄鶴は……黄鶴はここにいるっすよ!」


 大きく、ゴツゴツとした蒼達の右手を、黄鶴は両手でひしと握る。


 「あぁ……黄鶴。生き……ている……のだな」


 「ええ。ええ……。黄鶴は生きてるっす。蒼達様が守ってくれたからっす」


 だから――。と続けようとした言葉は、喉の奥から出てこなかった。


 右手から伝わる拍動が、少しずつ弱くなる。


 「黄鶴……俺は……ここまで……のよう……だ」


 ギュッ、と蒼達の手を握る両手に黄鶴は無意識に力を込める。


 気安い慰めは、要らない。


 それは、蒼達という武人に対する侮辱だ。


 黄鶴は、蒼達の言葉を一言一句、効き洩らさぬよう静かに耳を傾ける。


 「黄鶴……武に身を置くとは……難儀なものだなぁ。


 結局……何一つ、ままならん」


 呼吸が浅くなる。


 拍動の間隔が、また長くなった。


 「守った数より……失った数の方が……遥かに多い。


 守れたものの……大きさで……身を立てる日々だ」


 目の光が薄らいでいく。


 胸は、全く動かなくなった。


 「黄鶴……芯を持て。


 これだけは守り抜く……という、芯を。


 それを守るため……我らは、刀を取るのだ」


 震える手で、蒼達は腰に下げた刀を抜き、黄鶴に差し出す。


 「失ったものに……引き摺られるな。


 守れたものの大きさを……常に考えよ」


 黄鶴は両手を蒼達の右手から離し、下から持ち上げるように刀を受け取る。


 「黄鶴よ……」


 必死に涙をこらえ、黄鶴は蒼達の顔を見上げる。


 慇懃とした表情のまま、蒼達は告げる。


 「……刀と共に生きよ、黄鶴」


 蒼達の言葉に、黄鶴は大きく頷く。


 黄鶴が再び顔を上げたとき、蒼達の顔には厳しさはなかった。


 どこまでも、愛しむように、優しさを湛えた表情だった。


 ――拍動は、完全に止まっていた。


 

 「もう、いいのか」


 見張りをしていた霆華の背後に、黄鶴が歩いてきた。


 彼女がやったことは、赤魔軍の右腕を抜き取り、蒼達を横に寝かせただけだ。


 「いいっす。まだ、終わってねえっすから」


 霆華がチラリと黄鶴の腰に目を落とす。


 小太刀が二本。


 そして、蒼達が持っていた『龍刃丸』が提げられていた。


 「――受け取ったんだな」


 「……そうっす。もう、負けらんねぇっす」


 「よし!じゃあ、行きますかっ!」


 霆華の号令と共に、黄鶴は振り向かず広場へと飛び出す。


 目の前には、体中を傷だらけにしながら赤魔軍と大事する雪焔がいた。


 赤魔軍は隻腕であるにも関わらず、その実力差を思い知らされる光景。


 (蒼達様。見ててくれっす)


 ――もう失わない。


 ――もう奪わせない。


 満身創痍の雪焔へ、赤魔軍の左手が伸びる。


 「これ以上、私の宝物に触るなー!」


 伸ばされた左腕へ、黄鶴は当て身の要領で小太刀と共に突進する。


 左腕の衝撃に引き摺られ、赤魔軍の体が僅かによろめいた。


 その僅かな動きに合わせて、黄鶴は横薙ぎにもう一本の小太刀を振るう。


 横一線の軌道は、そのまま赤魔軍の装甲に傷跡を残す。


 黄鶴の攻撃は、その一撃で止まらない。


 左腕の下へ潜り込み、左わき腹への二撃。


 そのまま赤魔軍の背後に回り込んでの三撃。


 右わき腹へと回り込んだ黄鶴は、二刀の小太刀を平行に構えたまま、右足を軸に回転する。


 「吹っ飛ぶっすーーー!」


 回転の力と、全体重を乗せた一撃を、黄鶴は赤魔軍の防御から叩きつける。


 右足と左腕で不安定な防御を取った赤魔軍は、後ろへ勢いよく飛ばされた。


 「雪焔。大丈夫っすか!」


 「え、ええ。……助かったわ」


 「良かったっす。ちょっと、作戦があるっす――」


 連続した斬撃が、赤魔軍に畳みかけられる。


 雪焔は狙いを絞らせないよう、絶えず動きながら攻撃を重ねる。


 そうしながら、雪焔は黄鶴からの“作戦”を反芻していた。


 ――“とにかく、赤魔軍の頭の位置を高くしてほしいっす。こう、全身が上に伸びるくらいっす!”

 

 ビュオッ、と身をかがめた雪焔の直上を赤魔軍の左腕が通過する。


 苛烈な攻撃を紙一重で躱しながら、雪焔は好機を待つ。


 そして、遂にその時が訪れた――。


 「――!ここだ!」


 雪焔が視たのは、赤魔軍の頭上へと伸びる『刃の道』。


 雪焔は、迷わずその流れに乗り、上空へと高く跳んだ。


 赤魔軍がその後を追うよう、左腕を上空へと伸ばす。


 腕から足にかけて、赤魔軍の体勢が直線でつながる。


 赤魔軍の頭部は、これ以上なく高いところまで釣られていた。


 「――ありがとうっす。雪焔」


 助走をつけ、黄鶴は赤魔軍の頭部目掛けて大きく跳ぶ。


 空中で、黄鶴は赤魔軍の瞳らしきものと目が合った。


 黄鶴の狙いに気づいたのか、赤魔軍はその身を屈みこませる。


 (しま――っ!)


 攻撃が躱されると直感した直後、不意に赤魔軍の動きが止まった。


 赤魔軍の左足。


 蒼達によって深々と打ち込められた6本の矢が、その関節の駆動を完全に壊していた。


 その事実を知り、黄鶴はこみあげる思いを抑え込む。


 「これで、終わりっす!」


 ガキンッ、と黄鶴の一撃は、狙い通り赤魔軍の頭部へと直撃する。


 顔を仰け反らせた赤魔軍の首元から、半分傷ついた赤い宝玉が見える。


 「はあぁぁぁぁ!」


 着地した雪焔は、そのまま赤魔軍の首筋――赤い宝玉のすぐ真裏の位置、を全力で叩く。


 今度こそ、完全に、赤い宝玉の姿が露わになった。


 「霆華!今っす!」


 黄鶴の合図とともに、霆華は引き絞った一射を放つ。


 その矢の軌道を、赤魔軍の頭上から黄鶴は見守る。


 (――蒼達様。あなたとの約束。忘れないっす。そして――)


 音を置き去りにした霆華の矢が赤い宝玉の表面に当たる。


 (――そして、私たち、やったっすよ!蒼達様!)


 矢は赤い宝玉を粉々に打ち砕く。


 糸が切れたように、赤魔軍は、瞳らしきものの輝きを失わせて、その場に倒れる。


 「や……った?倒した……」


 雪焔はその場に座り込む。


 その隣へ黄鶴が駆け寄り、ヒシッと雪焔を抱きしめた。


 「ち、ちょっと、黄鶴。いきなり何――」

 

 「やったっす……やったっす……」


 大粒の涙を流しながら、繰り返し呟く黄鶴の頭を雪焔は撫でる。


 雪焔は抗議の言葉を飲み込んだ。


 合流した三人の元に、無機質な声が届く。


  【エマージェンシーコード14。


  殲滅部隊の部分的な壊滅を確認。


  ――クリア。残存魔力量を測定。

 

  ――クリア。この個体の残存魔力を他の個体へ移植開始。


  ――クリア。他の個体の戦闘数値を上昇を確認。


  ――クリア。他の個体の戦闘数値を2倍にしました】


 「……なんっすか、今の」


 「聞き慣れない言葉もあったけど、門と同じ声だった」


 「魔軍が急に強くなったのと関係あるっすかねぇ」


 「え?あの魔軍って、元からあの強さじゃないの」


 雪焔の問いに、黄鶴は否定するように首を振る。


 「いいや。あいつ、突然、別人見たいに強くなったっす」


 「じゃあ、つまり……」


 雪焔は少し考えて口を開く。


 「赤魔軍って、倒したら他の奴らが強くなるってこと?」

 

 誰とでもなく、皆が門を挟んで、向こう側で戦う静焔と馬順を想起する。


 「黄鶴、霆華。……いけますか」


 「ああ、ばっちりだぜ」


 「私も、行けるっす!」


 三人は同時に立ち上がり、門の向こう、残る一体の赤魔軍を討伐するために駆けだした。

 

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