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第二十四話 魔蔓延る大森林 死中の活路

 立ち上がった赤魔軍に向かい、静焔、雪焔、蒼達がそれぞれ突撃する。


 「黄鶴!お前は念のため、周りで倒れている白魔軍どもを再起不能にしろ」


 「了解っす、蒼達様!」

 

 蒼達の背中越しの指示に、即座に反応した黄鶴は手近な白魔軍の首をはねた。


 「いい部下だな」


 「あぁ。最高だよ、あいつは。しっかり守ってやらねぇと、なぁ!」


 三者それぞれの一刀が赤魔軍へと入る。


 その装束には、鋭い傷跡が確かに刻まれていた。


 「よし!いけるぞ。このまま押し切る!」


 蒼達の号令に、静焔と雪焔が頷く。


 三局の戦闘は、均質の展開を迎えていた。


 赤魔軍の魔崩を早い段階でいなし、こちらの一撃を叩き込む。


 赤魔軍に増える傷跡とは対照的に、静焔の顔は僅かに曇る。


 (……マズいな、これは)


 静焔の心中には、一抹の不安が芽生えていた。


 傷を与えども致命にはなりえない攻撃の連鎖。


 疲労という概念が無い魔軍と対峙する上で、この状況の危うさは看過できない。


 「雪焔!何とかして、敵の急所を見つけてくれっ!」


 「もう、やっています!必ず!見つけてみせます!」


 迫る魔崩を皮一枚で躱しながら一撃を加えていく雪焔の顔に疲労の色が浮かんでくる。


 刃の通るべき道である『刃の目』を視る雪焔の目がせわしなく赤魔軍の全身を滑る。


 (くそっ!どこにも急所が見つからない……!早く、早く何とかしないと!)


 焦る雪焔の次なる一撃は、直線的な軌道を描く大振りの袈裟斬りだった。


 ガキンッ!


 雪焔が振り下ろした刃は硬質の大地に爪痕を残す。


 躱された、と雪焔が認識することと、赤魔軍の魔崩が雪焔に照準を合わせたのは、ほぼ同時だった。


 「――!雪焔っ!」


 静焔は素早く援護に向かおうと試みるが、赤魔軍が行く手を阻む。


 「くそっ!どけぇぇぇ!!」


 叫ぶ静焔の前で、雪焔に向かい、無常の一撃が放たれる瞬間。


 超高速で向かって来た何かが、雪焔の前から赤魔軍を強制的に消し去った。


 雪焔は硬直したまま、急に目の前に滑り込んできた人物を見上げる。


 赤魔軍を右の拳で吹き飛ばした少年。


 「なんだぁ。死にそぉな面しやがって」


 馬順は呆れるように雪焔を見下ろしていた。


 「馬順!よくやったぞ!」


 「うっせぇ。おっさんも、早くそいつを何とかしろやぁ」


 高揚したように叫ぶ静焔は、たった三撃で赤魔軍に門を柱を背負わせるまで後退させた。


 「なんだよ、おっさん。やりゃあでき――」


 軽口を叩こうとした馬順は、上半身を大きく仰け反らせる。


 先ほどまで馬順の頭部があった場所を、魔崩が勢いよく通過した。


 「……まぁだ、やれんのかよ。そりゃあ、おっさんも苦労するわな」


 馬順の視線の先には、右胸の装甲が大きく穿った赤魔軍が立っていた。


 「おい、雪焔」


 「なによ、馬順。私、退かないわよ」


 「そうじゃねぇ。俺があいつをボコボコにしてやるから、オメェは奴らの急所を探せ」


 バキバキ、と馬順は両手の関節を豪快に鳴らす。


 右足で地面を蹴り、馬順は赤魔軍の懐へ一瞬で入り込んだ。


 「表に急所が無ぇってなら――」


 馬順の拳が高速で赤魔軍の顎の部分に寸分違わず向かう。


 「こいつの中にあるってこったろぉが!」


 バギンッ!

 

 赤魔軍の体が大きく仰け反り、宙を舞う。


 地面を削りながら進む赤魔軍の体は大の字になり、その動きを止めた。


 殴り飛ばされた赤魔軍が再び、立ち上がる。


 その顔に当てられた菱形の装甲。


 その下半分が大きくえぐれていた。


 「どぉだ、雪焔。あいつの急所はみつかったかぁ」


 余裕の表情を見せながら、馬順は後ろで控えていた雪焔に問う。


 雪焔は赤魔軍を凝視していた目に軽く手を当てながら答えた。


 「――ええ。はっきりと、見えたわ」


 雪焔は、だらり、と刀身を下にした状態で、刀を体の脇に構える。


 「馬順。申し訳ないけれど、あいつへのトドメは私が刺すわね」


 「はぁ?なんでぇ、美味しいトコ取りかよぉ」


 「……そうじゃ、ないわ」


 馬順の横を駆け抜け、雪焔は一直線に赤魔軍へと向かう。


 ――強く、なりたい。

 

 ――こんな魔軍なんて、一人で退けられるほど、強く……!


 タンッ、と足元へ放たれた魔崩を空中に飛来することで、雪焔は躱す。


 赤魔軍は絶え間なく放たれる魔崩の重爆を放つが、『刃の道』を視る雪焔はそのすべてをやり過ごす。


 雪焔が見つめるのは、菱形の装甲に隠された首にある空間の奥。


 白く輝くように見える円形の『刃の目』。

 雪焔はゆっくりと刀身を正面に向け、柄を腰に密着させるほどに引いた構えを取る。


 眼前に迫る雪焔に対し、赤魔軍の攻撃は止んでいた。


 奴が狙うのは、一瞬の刻。


 十分に引き付けた雪焔が地面を蹴る瞬間、その体は滞空する。


 再び放たれた魔崩は、無情にも正確に、宙にいる雪焔を狙う。


 (一体、今日だけで何度この光線を見たのだろうか……)


 速さ、威力、射程、軌道――。


 そのすべてが脳内に刻み込まれている。


 雪焔の眼前には、幾つにも枝分かれした『刃の道』。


 自分だけが視えるその光景を前に、雪焔は自嘲気味に笑う。


 (逃げ道ばかり、こんなに用意してちゃ、ダメね……)


 雪焔の右足が地面に着くのと、魔崩の雨が雪焔を襲うのは同時。


 次に起こった事象に、後ろで傍観していた馬順は思わず笑いころげた。


 「はっはぁ!マジかよぉ。雪焔。おめぇ――最高だぜぇ」


 笑い交じりの賞賛が右腕から血を流す雪焔に届く。


 雪焔は、『刃の道』をどれ一つ、選ばなかった。

 

 地についた右足から爆発的な瞬発を見せ、雪焔は正面から、魔崩の雨を振り切る。


 魔崩と接触した右腕から焼けるような痛みが全身を駆け巡る中、雪焔は一本の矢となり、赤魔軍へ突撃する。


 構えていた右腕をまっすぐに突き出す。


 驚異的な突進の威力が上乗せされた刺突は、赤魔軍の『刃の目』――赤い宝玉の中心を、貫いた。


 パリンッという甲高い音と共に、赤魔軍は力なく崩れ落ちる。


 肩で息をする雪焔は、後ろで囃し立てる馬順を気にもかけず、納刀する。


 「――馬順」


 「あぁ?なんだ?」


 雪焔は、逡巡するも馬順へと向き直す。


 「あなた、父上の加勢、頼める?私は、蒼達の元へ行くから」


 「あぁ、別にいいぜ」


 そう言って馬順は静焔の元へ向かう。


 (これは、私の私欲……)

 

 迷ったのだ。


 馬順を、蒼達と静焔、どちらに行かせるべきか。


 そして、雪焔は静焔を選び、馬順へと依頼した。


 (――この人選は、正しかっただろうか)

 

 その後姿を見送りながら、雪焔は自問する。


 バチッ、と雪焔は己の両頬を思いっきり叩いた。


 「弱気になっちゃダメ。私が、馬順くらい戦えばいいはず……」


 雪焔は、馬順の圧倒的な戦闘の光景を振り払うかのように強く頭を振る。


 そして、雪焔は蒼達の元へと駆けていった。


 雪焔が去った戦場に、赤魔軍の残骸が転がる。


 その残骸から、無機質な声が鳴る。


 【エマージェンシーコード13。


  殲滅部隊の部分的な壊滅を確認。


  ――クリア。残存魔力量を測定。

 

  ――クリア。この個体の残存魔力を他の個体へ移植開始。


  ――クリア。他の個体の戦闘数値を上昇を確認。


  ――クリア。他の個体の戦闘数値を2倍にしました。】


 鳴り響く声は、誰の耳にも届かない。

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