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第二十話 魔蔓延る大森林 六連星

 ガシャン。


 袈裟斬りにされた魔軍の装甲が力なく落下する。


 切り伏せた刀を納刀することなく、雪焔は木々の合間を縫って走り、仲間と共に魔軍の根城へと直進する。


 夜明けとともに廃屋を出発した彼らが目的の地へ近づくにつれて、魔軍と小競り合いをする頻度は上がった。


 「大丈夫か、雪焔」


 「父上。あの程度、問題ありません」


 「そ、そうか……」


 初めて共闘する娘の刺すような雰囲気に、静焔は思わずたじろぐ。


 そこへ、木の影から新たに3体の魔軍が襲い掛かった。


 静焔が柄に手をかけ、雪焔が『刃の道』を視認する。


 しかし、二人の剣が魔軍に届くことはない。


 静焔らの後方から放たれた矢が前2体の装甲を貫き、残る1体は無数の刃痕を残して落下していった。


 「大頭!雪焔も、気が抜けすぎじゃありません?」


 「もうすぐ敵の本陣っす。ゆめゆめ、気を抜かぬように頼むっす……」


 霆華と黄鶴。


 若者二人に叱られ、静焔はバツが悪そうに「すまなかった」と口に出す。


 「……父上のせいですからね」


 「……心配しただけなんだよぉ」


 「不要です」


 雪焔の冷たいともとれる態度に、静焔は雪焔を抱いたときに聞いた大叔母の言葉を思い出す。


 「突き離すような雪焔の態度は成長の証じゃ。親ならその時、ドーンと構えとれよ!」


 「――大叔母様。今が、その時なんでしょうか……」


 ポンッと。


 いつも間にか隣を駆ける蒼達は深くは語らない。


 「――子離れ、頑張れよ!」


 最高の笑顔を向けてくる蒼達に静焔は無性に腹が立つ。


 蒼達の脇腹には割と強めに静焔の蹴りが入っていた。


 「おいおい。あのおっさん二人組ぃ。あの調子で大丈夫かぁ?」


 「まぁ、今はまだ魔軍の抵抗も少ないから……」


 いつもの軽い口調で、しかし珍しくまっとうなことを述べる馬順に、霆華は努めて冷静に返す。


 「いいけどよぉ。そろそろ、忙しくなりそうだぜぇ」


 どういうこと、と霆華が馬順を真意を問おうとした途端。


 先行していた黄鶴の声が全員の耳に届く。


 「前方!魔軍の群れが来ます。数は……お、およそ300です!」


 300、という数字に場の空気が一瞬で張り詰める。


 「馬順!上がってこい!」


 「黄鶴!お前は下がれ!」

 

 静焔と蒼達、それぞれの指示が響く。


 「はぁ、お呼びだとよぉ。ったく。何で俺がおっさんの言うこと――」


 「馬順!早くしろ!」


 「はいはいはぁい!」


 霆華は、気だるそうに静焔の隣へ向かう馬順の背中を追った。


 入れ替わるように、木の上から黄鶴が霆華の斜め前へ躍り出る。


 同じくして、雪焔が速度を落として霆華と並走する。


 前を行くのは静焔、蒼達、馬順。


 後を追うように、霆華、雪焔、黄鶴が続く隊列へと変化した。

 

 「……今更だけど、隊を二つに分けるのって、大丈夫なのか」


 「むしろ分けないと危険っす。あれ見たら分かるっす」


 霆華の疑問に答えるように、黄鶴は前方の空を浮遊する魔軍の集団を指さす。


 それらは先頭に続くように急降下すると、そのまま森の中へ吸い込まれた。


 「あいつら、見通しの悪い森を利用して攻めてくるっす。固まってたら取り囲まれて蜂の巣っす」


 「つまり、私たちの役目は前で戦う人たちの援護ね。回り込もうとする奴らを一掃する」


 「森に強い私はこっちのほうが向いてるっすけど、お二人は……」


 ビュン。


 霆華は黄鶴の右耳を掠めるように矢を放った。


 木々の合間を縫うように飛ぶ矢が行きついたであろう場所。


 何かが一瞬、青白い光を弾きとばし、ドサッという音ともに機能停止になる。


 雪焔は反対側へ。


 目を見張る速度で木々の間を通り抜けると、2体の魔軍をそれぞれ一刀に伏して戻ってきた。


 「俺は、少し遠目が利くのと遠距離でも戦える」


 「私は、最善な道を選んで接敵し、一刀で沈める。森の中でも関係ない」


 あ、あはは……。


 黄鶴は少し冷や汗をかきながら、驚きを隠すように二人に愛想笑いを浮かべた。


 前を走る馬順の眼前に、数十の魔軍の群れが迫る。


 「おっさん組。俺ぁ先に行くぜぇ」


 そう言って馬順は思いっきり地面を蹴り、跳躍する。


 先頭の魔軍の頭を右腕を振り抜いて破壊すると、その胴体を足場に、さらに奥の魔軍へととびかかる。

 

 空中に出鱈目な幾何学模様を描きながら、馬順はそれを繰り返した。


 「凄まじいな、やつは」


 「あぁ。とても敵わん」


 「弱気言ってんじゃねぇよ、静焔。ほら、くるぜ」


 馬順の猛攻を掻い潜った魔軍が静焔と蒼達の元へやってくる。


 上空から迫る彼らに加え、静焔らの左右へ回り込むように魔軍が展開する。


 「……囲まれるのは、まずいんじゃねぇか?」


 「後ろには霆華たちがいる。敵は囲いきれない。左右に長く伸びるだけだ」


 左右から姿を見せた魔軍は、背中合わせに立つ静焔たちに魔崩を放つ銃口を向ける。


 「時に、蒼達。お前、魔崩を切ったことは?」


 「――500越えたあたりから数えてねぇ」


 「上等。……馬順!前の敵は任せたぞ上空も、地上も、だ」


 「はぁ!?人使い荒すぎんぞお前ぇ!」


 悪態をつく馬順を声をかき消すように、キイィィィンと甲高い音が聞こえる。


 直後。


 無数の魔崩が静焔と蒼達を目掛けて一斉に飛ぶ。

 

 尋常ならざる剣速と、正確無比な斬撃をもって、折り重なる魔崩は次々と空に消えた。


 「――おい。何か、おかしくねぇか」


 「お前も気づいたか。そう、これはおかしい……」


 魔崩の攻撃が、止まない。


 一撃を放つごとに、魔軍は若干の時を空ける。


 しかし、魔崩の弾幕は絶えることなく続いている。

 

 「やつら、隊列を組んでやがる」


 「3列。1列ごとに撃つことで攻撃の手を休めない……。シンプルだが効果的だ」


 「あいつら、今まで戦術なんて組んで来なかったぞ」


 「ああ。これは、恐らく――」


 魔軍を指揮する存在がいる。


 静焔と蒼達がその結論に至ったのは同時だった。


 そして、自らの判断が後手を踏んだことも理解する。


 「……防戦に回ったのはマズかったな」


 「うむ。撃たせてからの反撃狙いだったのだが……」


 若干の、沈黙。


 二人は唐突に口角を上げ、野蛮に笑う。


 「いやぁ~。しょうがない。しょうがないな、静焔!」


 「いやはや、全く。敵に一杯食わされた!」


 「本当にそうだ。こりゃあ、もう力押して乗り切るしかないなぁ」


 「では蒼達は右、私は左ということで」


 「心得た。では――参る!」


 その瞬間。


 静焔たちの姿が、消えた。


 空を進む魔崩は、そのまま反対側の魔軍に当たり、同士討ちになる。


 上空へ大きく飛んだ静焔と蒼達は、それぞれ敵隊列の中央へ落下すると、横薙ぎの一閃で数体を一息に我楽多へと変えた。


 突然の状況に混乱する魔軍の中、悠然と志士は立つ。


 「「さぁ!ここからは大暴れといこうか!!」」


 

 「――ついに、ここまで来たか」


 山と積まれた魔軍の残骸の上で、静焔は視線の先にあるものをまじまじと見つめる。


 木々がない開けた円形の地に聳える巨大な門。


 その一端を垣間見る位置まで、遂に彼らは到達した。


 刈り取った魔軍の頭部を放り投げ、静焔は残骸の山を滑り降りる。


 自然と並び立つ6人。


 ここが最後の戦場であると、誰もが一様に感じていた。


 「いいか」


 おもむろに蒼達が口を開く。


 「これより先は敵地。これまで以上に苛烈な戦闘になるだろう。だが――」


 蒼達の語気が強くなる。


 「死力を尽くして戦おう。そして……生きて帰るぞ。我らそれぞれが人類にとっての希望。我らは――六連星だ」


 ――己が誇りのためにここまで来た者がいる。


 ――強さを知り、また弱さを知った者がいる。


 ――己が故郷への道を模索する者がいる。


 ――未来を守り、希望を満たすために立つ者がいる。


 ――主君の仇を討つことを渇望する者がいる。


 ――一人生き残った罪へ、義をもって報いようとする者がいる。


 各々が自らの選択の末、同じ瞬間を迎えた。


 様々な想いをもった6人の星は、一様に右足から踏み出し、歩み始めた。

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